AIの基礎

【IPA・総務省データ】AI研修 カリキュラムの作り方|学習項目はDXリテラシー標準の4区分・到達度は講座レベル1〜4(2026年時点)

AI研修 カリキュラムの作り方を、デジタルスキル標準ver.2.0の4区分、AI事業者ガイドライン、IPA手引書をもとに、対象者別の学習項目・演習の題材・到達度レベル1〜4の評価表まで整理します。

【IPA・総務省データ】AI研修 カリキュラムの作り方|学習項目はDXリテラシー標準の4区分・到達度は講座レベル1〜4(2026年時点)(概念図)

この記事の対象

  • 社内のAI研修を企画する人材開発・人事担当者
  • 情報システム部門でAI利用ルールを所管する担当者
  • DX推進部門で全社の学習計画を立てる担当者

流れ

  • 学習項目の一覧・演習の課題・到達度の評価表という3つの成果物に分ける
  • DXリテラシー標準の4区分とAI事業者ガイドラインの共通の指針8)で学習項目と到達目標を決める
  • 対象者を全社員・AI管理者/セキュリティ担当・推進担当の3層に分けて参照資料を割り当てる
  • 全社員向けにIPA手引書2.4.4の4項目と社内ルール(DS-920の記載事項を参考に洗い出し)を組み込む
  • 固有リスクの低い業務から演習の題材を選び、誤用・悪用を想定した場面も加える
  • 学習項目×到達度レベル1〜4×確認方法の3列で評価表を作る

AI研修の企画を任されたものの、こんなところで手が止まっていませんか。

  • 研修をやることは決まったが、何をどこまで教えるかの中身が決まらない
  • 全社員と担当者に同じ内容を流してよいのか、判断できない
  • 受講後に「分かった気がする」で終わり、身についたかを確認する方法がない

結論から書きます。AI研修 カリキュラムは白紙から考えるものではなく、学習項目は公的な標準から転記し、演習は自社の業務から選び、評価表を自作する、という順番で組み立てられます。

この記事では、IPA・経済産業省のデジタルスキル標準、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン、IPAの手引書、デジタル庁のガイドラインという一次資料をもとに、対象者別の学習項目・演習の組み方・評価表の作り方を整理します。

この記事のポイント

  • 学習項目の骨格は、IPA・経済産業省「デジタルスキル標準」ver.2.0(2026年4月)のDXリテラシー標準にあるWhy・What・How・マインド/スタンスの4区分から選べます。
  • 対象者は全社員・AI管理者/セキュリティ担当・推進担当の3層で切り分けます。AI事業者ガイドライン第1.2版 別添(令和8年3月31日)は、役職と担当に適した研修・教材を用い、AI倫理は全社員に受講させる工夫を挙げています。
  • 全社員向けの必須項目は、IPA「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(2026年7月)が示す、ガイドラインの内容・被害事例・ハルシネーション前提の出力確認・リスク対策の4点です。
  • 演習は固有リスクの低い業務から始め、誤用・悪用・プロンプトインジェクションを想定した失敗シナリオも扱います(同手引書 第5章・3.4.1)。
  • 評価表は学習項目×到達度×確認方法の3列で自作します。到達度はマナビDXの講座レベル1〜4(レベル4に到達するには業務経験が必要)を援用できます。

AI研修のカリキュラムは学習項目・演習・評価の3点で組み立てる

カリキュラムづくりが止まる原因の多くは、作るべき成果物が決まっていないことにあります。AI研修 カリキュラムは、「学習項目の一覧」「演習の課題」「到達度の評価表」という3つの成果物に分けると、検討が前に進みます。

理由は単純で、3つのうち学習項目と到達目標は、国が公開している標準やガイドラインから転記できるからです。一方で、演習の課題と評価表は自社の業務に合わせて作る部分になります。

借りる部分と作る部分を最初に線引きしてみてください。社内の議論を、学習項目の取捨選択ではなく演習の設計に回せるようになります。

成果物 決めること 拠りどころにできる資料
学習項目の一覧 対象者ごとに何を学ぶか デジタルスキル標準 ver.2.0(DXリテラシー標準・DX推進スキル標準)
演習の課題 どの業務で手を動かすか IPA「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(2026年7月)第5章、デジタル庁DS-920
到達度の評価表 何ができれば到達とみなすか マナビDXの講座レベル1〜4、IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月)第4章

表の整理に用いた資料: デジタルスキル標準 ver.2.0(IPA)、生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(IPA)、マナビDXでの学び方(IPA)

学習項目の骨格はDXリテラシー標準のWhy・What・How・マインド/スタンスの4区分(ver.2.0、2026年4月)

全社員向けの学習項目は、ゼロから書き出す必要がありません。IPA・経済産業省のデジタルスキル標準 ver.2.0(2026年4月)のDXリテラシー標準は、学習項目をWhy(DXの背景)・What(DXで活用されるデータ・技術)・How(データ・技術の利活用)・マインド/スタンスの4区分で定義しています。

理由は、この4区分が「なぜ学ぶのか」「何を知るのか」「どう使うのか」「どう向き合うのか」という研修の流れとそのまま対応するからです。各区分の下には学習項目例が置かれているので、研修の章立てに転記できます。

具体的には、Whyで社会や自社を取り巻く変化を扱い、Whatでデータやデジタル技術の基礎を扱います。Howで実際のツール利用やセキュリティを扱い、マインド/スタンスで姿勢の到達点を示す、という並びです。

4区分を目次の第1階層に置いてから、自社に不要な学習項目例を落としていく進め方にすると、抜け漏れの議論が短くなります。

到達目標はAI事業者ガイドライン共通の指針8)教育・リテラシーの3項目に合わせる

研修の目的を社内で説明するとき、拠りどころになる文書があると話が早くなります。総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(令和8年3月31日)の共通の指針「8)教育・リテラシー」は、①AIリテラシーの確保、②教育・リスキリング、③ステークホルダーへのフォローアップ の3項目で構成されています。

同ガイドラインは、各主体内のAIに関わる者が十分なレベルのAIリテラシーを確保するために必要な措置を講じる、と記載しています。つまり研修は、個人の興味ではなく組織としての措置に位置づけられています。

この3項目を、そのままカリキュラムの到達目標の見出しに使ってみてください。①は全社員の基礎研修、②は担当者のスキル再習得、③は取引先や利用者への情報提供、という形で担当部署に割り当てられます。

到達目標を公的な枠に合わせておくと、翌年度の見直しのときに、どの目標が未達かを同じ言葉で点検できます。

出典: AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(総務省・経済産業省)

対象者は全社員・AI管理者/セキュリティ担当・推進担当の3層に分けて学習項目を絞る

同じ内容を全員に流すと、全社員には細かすぎ、担当者には浅すぎる研修になりがちです。対象者を全社員・AI管理者/セキュリティ担当・推進担当の3層に分け、層ごとに参照する資料を変えると、学習項目を機械的に絞り込めます。

3層に分ける根拠は2つあります。AI事業者ガイドライン別添が役職と担当に応じた研修を挙げていること、IPAの手引書が想定読者ごとに読むべき章を示していることです。

対象者3層と各層が参照する学習項目の出所の対応(概念図)

対象者の層 学習項目の主な出所 中心になる内容
全社員 DXリテラシー標準の4区分、IPA手引書2.4.4 AIの基礎知識、社内ガイドライン、出力の確認
AI管理者 IPA手引書 第3・5・6章 運用対策、人的統制、固有リスク評価
セキュリティ担当者 IPA手引書 第2・3・4・5章 全社的な推進施策、被害事例、リスク評価
推進担当・専門人材 DX推進スキル標準「データ整備・活用」カテゴリー データ・AIの戦略的活用、AI実装・運用、ガバナンス体制

表の整理に用いた資料: デジタルスキル標準 ver.2.0(IPA)、生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(IPA)

役職と担当に適した研修を用い、AI倫理は全社員に受講させる(AI事業者ガイドライン別添 行動目標3-2)

層を分ける前に、分けてよい部分と分けてはいけない部分を押さえておきます。AI事業者ガイドライン(第1.2版)別添(令和8年3月31日)の行動目標3-2は、外部講師によるものを含め「役職及び担当に適した研修及び教材を用い」ること、特に重要となるAI倫理については全社員に受講させる等の工夫を挙げています。

つまり、技術的な内容は担当に応じて分けてよい一方、AI倫理は層をまたいで共通に置く、という設計になります。

別添はさらに、法的・倫理的側面に責任を負う役員・マネジメントチーム・担当者に対して、AI倫理およびAIの信頼性に関する一般的なリテラシー向上の教育を行う例も示しています。

研修計画書を作るときは、「全社員共通の枠」「役職者の枠」「担当者の枠」の3枠を先に用意し、AI倫理を共通の枠に固定してみてください。層ごとの時間配分を議論しやすくなります。

AI管理者は運用対策と人的統制、セキュリティ担当は全社施策まで(IPA手引書の想定読者別の章立て)

担当者向けの範囲は、資料の章立てをそのまま借りると決めやすくなります。IPAの生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(2026年7月)は、AI管理者は第3・5・6章(特に運用対策、人的統制)を中心に、セキュリティ担当者は第2・3・4・5章を中心に読むことを想定しています。

AI管理者は、AIシステムを管理・運用する際に考慮すべき事項を押さえる役割です。セキュリティ担当者は、AI活用を全社的に推進するために必要な施策まで理解する役割として整理されています。

研修の教材を作るときは、この章番号を学習項目の単位として使えます。章ごとに「読む」「演習する」「確認する」を割り当てれば、教材の分量も見積もりやすくなります。

なお、AI管理者とセキュリティ担当者以外の読者区分の名称と対応章については、本記事では原典での再確認が済んでいません。自社で使う前に、手引書の第1章の表を直接ご確認ください。

推進担当・専門人材の項目はDSS-Pの「データ整備・活用」カテゴリーから選ぶ

推進担当や専門人材の学習項目は、リテラシー標準では粒度が足りません。デジタルスキル標準 DSS-P 分冊版 データサイエンティスト編 ver.2.0(2026年4月)の共通スキルリストには「データ整備・活用」カテゴリーがあり、データ・AIの戦略的活用、AI・データサイエンス、データマネジメントのサブカテゴリーが置かれています。

スキル項目には、データ・AI理解・活用、データ・AI活用戦略設計、ガバナンス体制の構築・運用、AI実装・運用などがあり、それぞれに内容と学習項目例が定義されています。研修の到達目標を書くときは、この学習項目例の文言を流用できます。

また、スキル項目ごとにロール別の重要度が記号で示されています。自社のロールに近い列を見て、重要度の高い項目から研修の対象にする、という絞り方ができます。

ただし、重要度記号の凡例の正確な定義は、本記事では原典での再確認が残っています。記号の読み方は分冊版PDFの該当ページで確認してから社内資料に転記してください。

出典: デジタルスキル標準 ver.2.0(IPA)

全社員向けの必須項目はAIリスクと正しい利用方法の4点

全社員向けの研修は、時間が限られます。何を削るかで迷ったときは、削ってはいけない項目から決めると判断が早くなります。

IPAの手引書(2026年7月)2.4.4「AIセキュリティ教育の実施」は、AIを利用する全ての従業員に対して、AIリスクと正しい利用方法の教育を定期的に実施するとしています。

ここで示されている教育項目は4点です。この4点を全社員向けの骨格にし、残りの時間で自社のツールや業務の説明を足す、という組み立てにしてみてください。

ガイドラインの内容・被害事例・ハルシネーション前提の出力確認・対策方法を定期的に扱う

手引書2.4.4が教育に含めるべき主な項目として挙げているのは、次の4点です。研修の1コマをこの4点で構成すると、過不足の議論をしやすくなります。

必須項目 研修での扱い方の例 手引書で対応する箇所
AI利活用ガイドラインの内容 自社ルールの読み合わせと質疑 2.4.4
AIが引き起こす発生被害とその事例 事例の紹介と、自社で起きたらどうなるかの検討 第4章
ハルシネーションを前提とした出力の確認 誤った出力を見つける演習 2.4.4
AIリスクへの対策方法 日常業務でとる具体的な対策の確認 第6章

表の整理に用いた資料: 生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(IPA)

同手引書は、この教育を定期的に実施するとしている点も重要です。年1回の実施なのか半期ごとなのかは各社の判断になりますが、1回で終わらせない前提で年間計画に組み込んでおくと、ルール改定時の周知と合わせやすくなります。

「AIを知る」部分はDXリテラシー標準What区分「AI」の学習項目例から選ぶ

基礎知識のパートは、どこまで技術の話をするかで分量が変わります。DXリテラシー標準 ver.2.0(2026年4月)のWhat区分「AI」には、次のような学習項目例が列挙されています。

  • AIの歴史(AIの定義、AIブームの変遷、探索・推論 など)
  • AIを作る手法・技術(教師あり学習・教師なし学習・強化学習、ニューラルネットワーク、事前学習、ファインチューニング、大規模言語モデル、基盤モデル、AIプロジェクトの進め方)
  • AIの得意分野・限界
  • 人間中心のAI社会原則、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)
  • 最新の技術動向(生成AI など)

全社員向けであれば、このうち「AIの得意分野・限界」と「人間中心のAI社会原則・ELSI」を優先すると、後段の出力確認やリスクの話につながります。技術の仕組みは概要にとどめ、推進担当向けの回に回す、という切り分けが可能です。

学習項目例の文言をそのままスライドの見出しに使うと、研修の内容が公的な標準のどこに対応するかを説明しやすくなります。

短時間枠の教材にはIPA・AISI「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を使える

30分程度の枠しか取れない場合や、研修後の復習資料が必要な場合もあります。IPAおよびAIセーフティ・インスティテュート(AISI)が公開しているAI利用者のためのセキュリティ豆知識は、AI利用時の最低限かつ有効性の高いセキュリティ対策を厳選した資料です。

目次は「AIの基礎知識(AIの種類、生成AIとRAGの仕組み など)」と「ここから始めるAIセキュリティ対策(クラウドAIに営業秘密は教えない など)」の構成になっています。基礎と対策が1つにまとまっているため、短時間枠の教材として扱いやすい資料です。

自社で教材を一から作らず、まずこの資料を配布して読み合わせ、自社ルールとの差分だけを説明する進め方もあります。教材作成の工数を抑えたいときの選択肢として検討してみてください。

出典: 生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(IPA)

研修で説明する社内ルールの項目はDS-920の利活用ルールの記載事項から洗い出す

研修の中で最も質問が出るのは、「結局、何をしてよくて何がだめなのか」という社内ルールの部分です。ルールの説明項目は、デジタル庁のデジタル社会推進標準ガイドラインDS-920(2025年5月27日)が示す利活用ルールの記載事項から洗い出せます。

DS-920は行政機関向けのガイドラインです。そのまま民間企業に適用する文書ではありませんが、ルールに書くべき項目の一覧としては参考にできます。

同ガイドラインは、AI統括責任者(CAIO)がルールの策定・見直しと周知、研修を行うとしています。ルールの整備と研修が一体で扱われている点は、社内の役割分担を決めるときの参考になります。

利活用前に最低限理解しておく知識と要機密情報の取扱いを冒頭に置く

DS-920が利活用ルールに含めるとしている留意事項は、研修の説明順にそのまま置き換えられます。冒頭に知識と情報の取扱いを置き、後半に責任と記録の話を置く構成です。

説明の順番 ルールの記載事項 研修での問いかけの例
1 利用者が利活用前に最低限理解しておくべき知識 生成AIの出力はなぜ確認が必要か
2 要機密情報の取扱い等の留意事項 この資料は入力してよい情報か
3 利用目的の範囲内での利活用 この使い方は申請した目的の範囲か
4 AI生成物を利活用した業務に係る説明責任・リスク回避 成果物の内容を自分で説明できるか
5 生成AIを活用して職務上作成した文書の取扱い 作成した文書をどう保存・共有するか

表の整理に用いた資料: デジタル社会推進標準ガイドラインDS-920(デジタル庁)

5項目のうち、研修で最も時間を割くべきなのは2番目の要機密情報の取扱いです。入力してよい情報の線引きは、文章で読むだけでは判断が揺れます。自社の実物の資料を例に、入力の可否を分類する演習にすると理解が揃いやすくなります。

リスク発生時の報告先と責任者(CAIO)の周知まで研修に含める

ルールの説明は、禁止事項の列挙で終わりがちです。しかしDS-920は、生成AIシステム特有のリスクケースが発生した際のCAIOへの報告を利活用ルールに含めるとしています。

受講者の立場で考えると、困ったときに誰に連絡すればよいかが分からないことが、報告の遅れにつながります。研修の最後に、報告先の部署名と連絡の手順を1枚のスライドで示しておくと、実務での迷いを減らせます。

自社にCAIOに相当する役職がない場合は、AIの利用ルールを所管する部署を明示する形でも構いません。重要なのは役職名そのものではなく、報告の宛先が受講者に伝わっていることです。

また、ルールは見直されます。改定のたびに全社員へどう周知するかを、研修の年間計画と合わせて決めておいてください。

出典: デジタル社会推進標準ガイドラインDS-920(デジタル庁)

演習の題材は固有リスクの低い業務から選んで段階的に広げる

演習の題材選びで迷ったら、業務の面白さではなくリスクの大きさで並べてみてください。IPAの手引書(2026年7月)第5章は、対策前の「固有リスク」が、AIシステムの利用目的・対象業務・扱う情報・提供範囲・連携システムの有無などで決まるとしています。

この考え方は、演習の順番にそのまま使えます。最初の演習は固有リスクの低い業務にし、受講者が慣れてから扱う情報や提供範囲を広げる、という段階設計です。

なお同手引書は、各評価観点のレベル判断基準例は一般的な目安であり、自社の業界特性・業務内容・保有情報の性質に応じて調整して活用することが望ましいとしています。題材の並べ方も、自社の基準に合わせて調整してください。

題材の候補はHow区分「ツール利用」の学習項目例(プロンプト・ノーコード・RPA等)から取る

題材の候補が出てこないときは、学習項目の側から逆引きすると広がります。DXリテラシー標準 ver.2.0(2026年4月)のHow区分「ツール利用」の学習項目例には、生成AIの利用方法(画像生成・文章生成・音声生成ツールの概要、指示(プロンプト)の手法)、検索エンジンの使い方、ノーコード・ローコードツールの基礎知識、RPA・AutoMLなどの自動化ツールの概要が含まれています。

たとえば「指示(プロンプト)の手法」を学習項目に選んだなら、演習は社内向け文章の下書き作成になります。「ノーコード・ローコードツールの基礎知識」を選んだなら、簡単な申請フォームの作成が題材になります。

このように学習項目と演習を1対1で結びつけておくと、後で評価表を作るときに行が揃います。演習だけが独立して増えていく状態を避けられます。

同じ生成AIでも用途でリスクは変わる(社内向け文章作成と顧客への自動応答)

同じツールを使うから同じリスクだ、とは限りません。IPAの手引書(2026年7月)第5章は、同じ生成AIでも「公開情報を用いた社内向けの文章作成支援」と「顧客情報を参照して外部顧客へ自動応答する用途」ではリスクが異なると例示しています。

前者は、扱う情報が公開情報で、出力を見るのも社内の人です。後者は、個人情報を含む可能性があり、出力がそのまま社外に届きます。

研修の演習は、まず前者の型から始めるのが無理のない順番です。公開情報だけを使う社内向けの文章作成であれば、出力の誤りを見つける練習に集中できます。

顧客対応のような外向きの用途は、人の確認をどこに入れるかという設計の話が必要になります。推進担当やAI管理者向けの回で扱う題材として分けて考えてみてください。

利用者の範囲・扱う情報・人の判断の有無で題材を並べ替える(DS-920 表4のリスク軸)

題材を並べ替える軸は、行政向けの資料からも借りられます。DS-920(2025年5月27日)は、生成AI利活用のリスク軸として、利用者の範囲・種別、扱う情報、出力結果を職員の判断を経て利活用するかどうか、などを示しています。

リスクの軸 低い側の例 高い側の例
利用者の範囲・種別 組織内の限られた部署での利用 組織外の利用者を含む提供
扱う情報 機密性の高い情報や個人情報を扱わない 機密情報・個人情報を参照する
出力に対する人の判断 人が確認してから利用する 出力をそのまま利活用する業務設計

表の整理に用いた資料: デジタル社会推進標準ガイドラインDS-920(デジタル庁)

表の内容は、同ガイドラインが示すリスク軸の考え方を研修の題材選びの観点に言い換えたものです。表4のリスク軸の正式名称と全文は原典での再確認が残っているため、社内資料に転記する際はPDFの該当ページをご確認ください。

出典: 生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(IPA)

演習には誤用・悪用を想定した失敗シナリオを組み込む

演習がうまくいく例だけだと、受講者は「便利だった」で終わってしまいます。うまくいかない場面を演習に入れることで、ルールを守る理由が実感として残ります。

失敗シナリオの考え方は、システムの安全性確認の手順から借りられます。研修の演習にそのまま当てはめる記載ではありませんが、題材の作り方として応用できる、という位置づけです。

プロンプトインジェクション等の誘導攻撃を想定したシナリオ試験(IPA手引書3.4.1)

IPAの手引書(2026年7月)3.4.1は、運用前の確認において、通常の利用シナリオだけでなく、誤用、悪用、プロンプトインジェクション等の誘導攻撃を想定したシナリオについても試験を実施することが望ましいとしています。

同手引書は、プロンプトインジェクションを、入力文に悪意ある指示を埋め込み、AIの動作を意図せぬ方向に誘導する攻撃手法と定義しています。この定義は、全社員向けの研修でも短く紹介できる内容です。

研修では、たとえば外部から受け取った文書をそのままAIに読み込ませる場面を題材にできます。受講者には、文書の中に指示が紛れ込んでいる可能性を前提に、出力をどう確認するかを考えてもらいます。

なお、攻撃手法の具体的な記述を演習で配布するかどうかは、社内の判断が必要です。ここでは、誤用・悪用の場面を想定した確認を演習に含める、という考え方までを押さえてください。

態度目標は「生成AI利用において求められるマインド・スタンス」を使う

失敗シナリオを扱ったあと、受講者に持ち帰ってほしいのは姿勢です。DXリテラシー標準には「生成AI利用において求められるマインド・スタンス」の補記があり、生成AIを「問いを立てる」「仮説を立てる・検証する」といったスキルと掛け合わせて利用することが示されています。

あわせて、期待しない結果の出力、著作権などの権利侵害、情報漏洩、倫理的な問題に注意が必要であることを理解していること、変化にアンテナを張り学び続けていることも挙げられています。

この補記は、2023年8月のDXリテラシー標準の改訂で追加された内容として、IPAの2024年7月8日のプレス発表でも説明されています。

態度は点数化しにくい項目です。演習後の振り返りで「どこを疑って確認したか」を書いてもらう形にすると、態度目標の到達を言葉で確認できます。

出典: 生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書(IPA)

評価表は学習項目×到達度×確認方法の3列で自作する

受講後の確認方法が決まっていないと、研修は「やった」で終わります。評価表は、学習項目を行に、到達度と確認方法を列に置いた3列の表として自作するのが現実的です。

理由は、研修用の評価様式そのものに公的な雛形が見当たらないためです。一方で、行に入れる学習項目、列に入れる到達度の尺度、確認の観点は、それぞれ公的な資料から持ってこられます。

学習項目×到達度レベル×確認方法で構成する評価表の雛形イメージ(概念図)

学習項目(行) 目標とする到達度 確認方法
AIの得意分野・限界 レベル1(指導を受けて遂行) 演習での出力に誤りがあるかを指摘できたか
要機密情報の取扱い レベル2(一部を独力で遂行) 入力してよい情報かを自分で分類できたか
指示(プロンプト)の手法 レベル2〜3 社内向け文章の下書きを独力で作成できたか
固有リスク評価 レベル3(独力で遂行) 担当業務のリスク軸を自分で整理できたか

表は、学習項目・到達度・確認方法の組み合わせ方を示した例です。到達度の定義はマナビDXでの学び方(IPA)、確認の観点はテキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(IPA)を参照しています。

行はDXリテラシー標準・DX推進スキル標準の学習項目から転記する

評価表の行は、研修の学習項目と同じでなければ意味がありません。行には、全社員向けならDXリテラシー標準の学習項目例を、推進担当向けならDX推進スキル標準の「データ整備・活用」カテゴリーのスキル項目を転記します。

行を自作の言葉で書き直すと、研修資料と評価表の表現がずれて、受講者が何を評価されるのか分からなくなります。公的な標準の文言をそのまま使えば、研修・評価・翌年の見直しで同じ言葉を使い続けられます。

行数は、1回の研修あたり5〜10項目程度に絞るのが扱いやすい範囲です。学習項目例をすべて並べると、評価そのものが負担になります。

絞るときの基準は、前の章で整理した対象者の層です。層ごとに別の評価表を作り、全社員向けの行はAI倫理と情報の取扱いを必ず残してください。

到達度の尺度はマナビDXの講座レベル1〜4を援用する(レベル4は業務経験が必要)

到達度の言葉は、自作すると評価者によってぶれます。IPAが運営するマナビDXは、講座レベル1〜4をスキル標準のレベル定義に基づいて示しており、この尺度を研修の到達度として援用できます。

レベル 定義の要点
レベル1 要求された作業について、上位者の指導を受けて遂行するレベル(DXリテラシー標準)
レベル2 上位者の指導の下、その一部を独力で遂行するレベル
レベル3 要求された作業を全て独力で遂行するレベル
レベル4 専門スキルを駆使し、課題の発見と解決をリードし、後進育成に貢献するレベル

表の出典: マナビDXでの学び方(IPA)

マナビDXは、レベル4に到達するには業務経験(または実践的な演習の受講)が必要と明記しています。したがって、座学中心の研修の目標をレベル4に置くのは現実的ではありません。全社員向けはレベル1〜2、担当者向けはレベル2〜3を目安に設定してみてください。

確認方法は誤りの確認・偏りの確認・引用元の明示を観点に書く

3列目の確認方法は、演習の成果物を何で見るかという話です。IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月)第4章は、生成物の取扱いについて、誤りの確認、偏りの確認、引用元の明示などの注意点を示しています。

誤りの確認はハルシネーションへの対応です。同ガイドラインは、RAGなどで軽減できても完全には解消できないとしています。偏りの確認では、バイアスや差別的表現の有無を見ます。

引用する場合は、生成AIにより生成した事実を明示し、引用元を注釈することが挙げられています。著作権上の注意にも触れられています。

また同ガイドライン4.4.1は、導入効果の評価とフィードバックを定期的に行うための評価項目の策定を求めています。研修の評価表も、1回作って終わりにせず、運用の評価項目と合わせて見直す対象にしてください。

出典: テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(IPA)

この記事の範囲と未解決事項

この記事で扱ったのは、公開されている一次資料に書かれている学習項目の区分、対象者別の読む範囲、ルールの記載事項、リスクの軸、到達度レベルの定義です。各資料の記載内容と、出典URLが参照できる状態であることを確認しています。

一方で、次の点はこの記事では主張していません。

  • 研修の費用相場、外部委託の価格、ツールの料金
  • 研修を実施したことによる効果や成果(業務時間の削減量など)
  • 特定の企業・団体の導入実績や受講者の評価
  • 対象者別の推奨時間数や、望ましい実施頻度の数値

未解決の事項は次のとおりです。AI研修のカリキュラム内容(どの学習項目をどの対象者に、何時間実施しているか)に関する公的統計は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。実施率や時間数の相場はこの記事では扱っていません。

また、研修用の評価表そのものの公的な雛形も確認できていません。この記事の評価表は、学習項目・到達度レベル・確認方法を別々の資料から組み合わせて自作する前提で書いています。

あわせて、DX推進スキル標準のロール別重要度記号の凡例、IPA手引書第1章の想定読者区分の全体、DS-920の表4のリスク軸の正式名称については、原典での再確認が残っています。社内資料に転記する際は、各PDFの該当ページをご確認ください。演習の時間配分の公的な目安も確認できていません。

対象者別の学習項目・演習の組み方・評価表の作り方(まとめ)

AI研修 カリキュラムは、学習項目・演習・評価の3つの成果物に分けると組み立てられます。学習項目と到達目標は公的な標準から転記し、演習と評価表を自社向けに作る、という分担です。

学習項目の骨格は、デジタルスキル標準 ver.2.0(2026年4月)のDXリテラシー標準にあるWhy・What・How・マインド/スタンスの4区分から選びます。到達目標は、AI事業者ガイドライン第1.2版(令和8年3月31日)の共通の指針8)教育・リテラシーの3項目に合わせられます。

対象者は、全社員・AI管理者/セキュリティ担当・推進担当の3層に分けます。AI倫理は全社員に受講させる工夫が別添で挙げられているため、共通の枠に残してください。

演習は、公開情報を使う社内向け文章作成のような固有リスクの低い業務から始め、利用者の範囲・扱う情報・人の判断の有無で段階的に広げます。誤用・悪用・プロンプトインジェクションを想定した場面も題材に含めます。

評価表は、学習項目×到達度×確認方法の3列で自作します。到達度はマナビDXの講座レベル1〜4を援用し、座学中心の研修ではレベル1〜3を目安にするのが現実的です。

AI研修のカリキュラム設計についてのご相談

学習項目の一覧までは作れても、自社の業務に合う演習の題材や、評価表の列の決め方で迷うことは少なくありません。どの業務から演習にするか、どの層にどの項目を割り当てるかは、業務の中身を見ないと決められない部分です。

自社の業務に合わせたAI活用の進め方や、研修で扱う範囲の整理について、お困りの点があればお問い合わせページからご相談ください。現在の体制やルールの整備状況をうかがったうえで、検討の進め方を一緒に整理します。

出典一覧

自社で試す前に確認したいこと

  • AI倫理の項目が全社員共通の枠に入っているか
  • 要機密情報の取扱いを実物の資料で分類する演習になっているか
  • 演習の題材が利用者の範囲・扱う情報・人の判断の有無で並んでいるか
  • 評価表の行が公的な標準の学習項目の文言と一致しているか
  • 座学中心の回の到達目標がレベル1〜3の範囲に収まっているか
  • リスク発生時の報告先が受講者に明示されているか

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    1本3〜5分の動画で、ひとつずつ学びます。

  2. 演習で、つくってみる

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  3. 確認問題で、確かめる

    理解できたかを確かめてから、次のテーマへ進みます。

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