AIの基礎

【総務省・IPAデータ】中小企業の生成AI活用と社内研修の考え方|活用方針を定めた企業は68.9%・中小企業は58.1%(2025年度調査)

総務省2025年度調査で生成AIの活用方針を定めた企業は68.9%、中小企業は58.1%。IPA調査のAI導入率や効果、デジタルスキル標準をもとに社内研修の考え方を整理します。

【総務省・IPAデータ】中小企業の生成AI活用と社内研修の考え方|活用方針を定めた企業は68.9%・中小企業は58.1%(2025年度調査)(概念図)

この記事の対象

  • 中小企業の経営者・管理部門の担当者
  • 社内の情報システム担当者
  • 生成AIの社内展開や研修を検討している担当者

流れ

  • 活用方針を一文で決め、経営層が対象業務と達成目標を示す
  • 対象業務を議事録・メール作成補助などの文書作成まわりに絞る
  • 効果の指標を業務効率化の側(作業時間・手戻り)で決める
  • 学習内容をデジタルスキル標準の学習項目例に対応づけて章立てする
  • デジタルスキル標準の更新履歴を年1回照合し、教材の版を見直す

社内で生成AIを使わせたい。でも、何から手をつければよいか決めきれない。そんな声をよく聞きます。

  • 生成AIを社内で使わせたいが、どの業務から始めればよいか決めきれない
  • 同じ規模の会社がどこまで進んでいるのか分からず、自社の遅れ具合を判断できない
  • 研修を組むとしても、何を教えればよいのかの基準が社内にない

先に結論をお伝えします。出発点になるのは、活用方針を決めること、対象業務を絞ること、学習内容を公的な基準に対応づけることの3つです。

総務省の2025年度企業向け調査では、生成AIの活用方針を定めた企業は日本全体で68.9%でした。一方、中小企業は58.1%です。

つまり、中小企業の4割ほどは方針を決めていない段階にあります。研修の中身を考える前に、確認しておきたい数字があります。

この記事のポイント

  • 生成AIの活用方針を定めた企業は日本全体で68.9%、大企業74.0%に対して中小企業は58.1%です(総務省2025年度企業向け調査、令和8年版情報通信白書)。
  • AIの導入率は従業員1,001人以上で8割近く、従業員101人以下では16.6%と、規模による差が大きい状況です(IPA 2025年度DX動向調査、2026年7月公表)。
  • 活用が最も多い業務類型は議事録・メール作成補助で約7割、導入効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%で、「売上や利益が向上した」は3.9%でした(総務省2025年度調査/IPA 2025年度DX動向調査)。
  • 研修内容の拠りどころになるのがIPAのデジタルスキル標準で、2026年4月のver.2.0でAI実装・運用やAIガバナンスのスキルが新設されました。
  • 社内研修の実施率・実施時間・費用の相場にあたる公的統計は確認できていないため、この記事では扱いません。

生成AIの活用方針を定めた企業は68.9%、中小企業は58.1%(2025年度調査)

最初に確認したいのは、他社の進み具合そのものではありません。自社に活用方針があるかどうかです。

公的な調査では、方針の有無が企業規模ではっきり分かれています。まずはその全体像から見ていきます。

生成AIの活用方針を定めた企業の割合(全体・大企業・中小企業)(概念図)

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(生成AIの活用方針等)

日本企業全体で活用方針を定めた割合は68.9%

総務省の2025年度企業向けアンケート調査では、生成AIについて「積極的に活用する方針である」「活用する領域を限定して利用する方針である」と回答した割合の合計が、日本で68.9%でした。

この数値は令和8年版情報通信白書の「生成AIの活用方針等」の節に掲載されています。母集団は日本国内の企業に所属する回答者です。

注目したいのは、設問が「使っているか」ではなく「方針があるか」を聞いている点です。

つまり、全面的に使う会社だけでなく、領域を限定して使うと決めた会社も含まれています。限定利用でも方針として数えられるので、自社で「経理だけ」「議事録だけ」と決めた場合もこちらに入ります。

裏を返すと、残りの約3割は方針が未定か、把握できていない状態です。まずは自社がどちら側にいるのかを確かめてみてください。

大企業74.0%に対して中小企業は58.1%

同じ調査を企業規模別に見ると、差が出ています。大企業は74.0%、中小企業は58.1%で、その差は約16ポイントです。

企業規模 生成AIの活用方針を定めている割合
日本全体 68.9%
大企業 74.0%
中小企業 58.1%

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(生成AIの活用方針等)(2025年度企業向け調査)

この数字の読み方には注意が必要です。中小企業でも半数以上は方針を定めています。

一方で、4割ほどは方針が決まっていません。自社が後者であれば、研修の教材を探す前に方針の文書化から始めるほうが順序として自然です。

なお、この調査における「大企業」「中小企業」の区分基準が従業員数なのか資本金なのかは、記事作成時点で確認できていません。自社がどちらに当たるかの判断には、白書本体の定義をあわせて確認してください。

2024年度調査の49.7%から2025年度調査の68.9%へ上昇

同じ総務省の調査系列では、2024年度調査の値も公表されています。令和7年版情報通信白書の概要資料では49.7%、令和8年版情報通信白書の概要資料では68.9%と記載されています。

中小企業については、2024年度調査で約34%、2025年度調査で58.1%という値が示されています。1年で大きく動いた項目です。

ただし、この2つの数値を厳密な経年比較として扱ってよいかは、設問文・選択肢・集計対象が完全に同一かを確認できていません。

そのため、この記事では「同じ調査系列で上昇が見られた」という範囲にとどめます。社内資料に引用する場合も、同じ注意書きを添えておくと安全です。

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(生成AIの活用方針等)

業務で生成AIを使っている企業は86.4%、最も多いのは文書作成まわりの業務

方針の次に知りたいのは、実際にどの業務で使われているかです。ここが決まらないと、研修の題材も決まりません。

総務省とIPAの2つの調査は、いずれも文書を扱う業務が中心であることを示しています。

何らかの業務で利用していると回答した割合は86.4%

総務省の2025年度企業向け調査では、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合が86.4%でした。

この数値は、活用方針の設問で「わからない」と回答した対象を除いた上で集計されています。生成AIの業務利用状況の節に掲載されています。

86.4%という数字だけを見ると、ほとんどの企業が使っているように見えます。

ただし除外条件がある点は押さえておきたいところです。方針そのものを把握していない企業が集計から外れているため、日本企業全体の利用率と同じ意味ではありません。

社内で共有するときは「方針を把握している企業のうち、約9割が何らかの業務で使っている」という言い方のほうが誤解を生みにくいと考えられます。

活用が最も多い業務類型は議事録・メール作成補助で約7割

同じ節では、業務類型別の活用状況も示されています。日本では「議事録・メール作成補助」での活用を回答した割合が約7割で最も高く、導入効果を実感すると回答した割合も同じ類型で約7割と、他の類型より高くなっています。

ここから読み取れるのは、最初の一歩として選ばれやすい業務が文書作成まわりだということです。

理由は想像しやすいところです。議事録やメールは社内に素材があり、成果物の良し悪しをその場の担当者が判断できます。

研修の題材を決めかねている場合、まずはこの類型から選ぶと、参加者が自分の業務に引き付けて考えやすくなります。実際の運用ルールづくりも、同じ業務を軸にすると議論がまとまりやすいはずです。

IPA調査では文書・音声の要約・翻訳・校正が82.5%で最多

IPAの2025年度DX動向調査でも、似た傾向が出ています。利用用途の上位3項目は次のとおりです。

AIの利用用途 回答割合
文書・音声の要約・翻訳・校正 82.5%
文書・レポートの作成(社内・社外) 80.5%
情報検索・収集・分析・レポーティング 77.0%

出典: IPA 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント(2026年7月16日公表)(2025年度調査、国内企業対象)

調査主体が異なる2つの資料で、いずれも文書を扱う業務が上位に来ています。

この2つは設問も選択肢も異なるため、数値同士を直接比べることはできません。それでも、傾向が一致している点は社内の説明材料になります。

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(生成AIの業務利用状況)

AI導入率は従業員101人以下で16.6%、1,001人以上では8割近く

生成AIに限らず、AI全般の導入状況はIPAの調査が参考になります。ここでは規模差と効果の出方を見ていきます。

自社の遅れ具合を判断したい方は、全体平均より規模別の数値を見るほうが実態に近いはずです。

従業員規模によって導入率が大きく分かれる

IPAの2025年度調査では、従業員1,001人以上の企業で8割近くがAIを導入している一方、従業員101人以下の企業では16.6%でした。

この調査は2026年4月から6月に実施され、国内企業を対象としています。結果はIPAのプレス資料に掲載されています。

差が大きいのは事実ですが、読み方には幅があります。小規模な企業ほど、導入の判断や運用ルールづくりを担う人を確保しにくいためと考えられますが、この因果関係は調査から直接読み取れるものではありません。

実務的に言えるのは、従業員100人前後の会社であれば、周囲の多くもまだ導入していない段階だということです。

焦って全社展開を急ぐより、1つの業務で運用の形を作るほうが現実的な選択になります。

導入効果は「一定の効果はあった」が50.6%で最も多い

導入した企業が効果をどう評価しているかも公表されています。「期待以上の効果があった」と「期待どおりの効果であった」の合計は31.8%、「一定の効果はあった」が50.6%で最も高い回答でした。

この結果からは、導入すれば期待どおりになるとは限らない現実が見えます。多くは「一定の効果」という控えめな評価に落ち着いています。

社内で稟議を通すとき、効果を大きく見積もった説明をすると、後の振り返りで食い違いが出ます。

最初から「一定の効果が出れば続ける」という基準にしておくと、評価の場で議論がぶれにくくなります。期待値の置き方は、導入そのものと同じくらい大事な設計項目です。

効果の内容は業務効率化が91.6%、売上や利益の向上は3.9%

効果の中身を見ると、さらにはっきりした傾向が出ています。

導入効果の内容 回答割合
業務が効率化したり迅速化した 91.6%
企画提案等の品質や速さが向上した 48.9%
残業時間の削減につながった 29.2%
顧客満足度が向上した 4.5%
売上や利益が向上した 3.9%
対象となる顧客が拡大した 2.7%

出典: IPA 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント(2026年7月16日公表)(2025年度調査、国内企業対象)

効率化や迅速化が9割を超える一方、売上や利益の向上は3.9%にとどまっています。

この差は、社内の目標設定にそのまま影響します。売上向上を導入目的に掲げると、報告された実態とずれた期待になりかねません。

当面は作業時間や手戻りの削減を目標に置き、売上への影響は別の取り組みとして切り分けるほうが、評価が噛み合いやすくなります。

出典: IPA 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント(2026年7月16日公表)

組織的に取り組む企業は65.6%、取組がない企業は27.0%

個人が勝手に使っている状態と、会社として取り組んでいる状態は違います。総務省の調査は、その違いを数値で示しています。

研修を考える前に、自社がどの段階にいるかを確かめておきたいところです。

全社・部署・個人のいずれかで取り組んでいる割合は65.6%

生成AI活用による業務変革等について、全社横断・部署単位・個人業務単位のいずれかで組織的に取り組んでいると回答した割合は65.6%、「組織的な取組はない」は27.0%でした。

この集計は「利用を禁止している」との回答を除いたうえで行われており、組織的な取組状況の節に掲載されています。

同じ節では、「組織的な取組はない」の割合が中小企業で特に高いことも示されています。

言い換えると、中小企業では個人の工夫に任されている場面が多い可能性があります。個人の工夫は立ち上がりが速い反面、入力してよい情報の線引きや成果物の確認手順が人によってばらつきます。

研修の目的を「使い方を教える」から「社内の共通ルールを揃える」に置き換えると、取り組む意味がはっきりします。

中小企業では経営幹部からの実施事項・達成目標の提示が最も多い回答

戦略や方針の状況を企業規模別に見ると、中小企業の傾向が分かります。「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」が最も高い回答割合でした。

一方で、「特に実施している施策はない・把握していない」も一定割合見られたと記載されています。この集計は「組織的な取組はない」「わからない」の回答を除いたうえでのものです。

ここから読めるのは、中小企業では経営層の号令が起点になりやすいということです。

現場から積み上げる方式より、経営層が対象業務と達成目標を示す方式のほうが、調査で多く選ばれています。担当者としては、まず経営層に「どの業務で、何を達成したいか」を一文で決めてもらうと話が進みやすくなります。

環境整備はスキルやノウハウを学ぶ環境の有無が最も高い回答

環境整備についても、同じ節に記載があります。日本では「業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」の回答割合が最も高く、次いで「生成AI活用検討に向けた予算や人員が確保されている」が高い結果でした。

この傾向は企業規模別に見ても同様と記載されています。

つまり、企業が整えている環境の筆頭が「学ぶ場」だということです。ツールの契約よりも、学ぶ機会の有無が環境整備の中心に置かれています。

社内研修を検討する意味は、この点で裏づけられます。ただし、どの程度の企業が実際に研修を実施しているかという統計は、今回の調査からは読み取れません。

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(組織的な取組状況)

研修内容の拠りどころはデジタルスキル標準のDSS-LとDSS-Pの二本立て

研修を組むときに困るのは、教える内容に根拠がないことです。ここで使えるのが、IPAが公開しているデジタルスキル標準です。

公的な枠組みに対応づけておくと、社内の説明も、次年度の見直しもやりやすくなります。

デジタルスキル標準のDSS-LとDSS-Pの関係とDSS-Lの4つの構成要素(概念図)

出典: IPA デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的

DSS-Lの構成要素はWhy・What・How・マインド・スタンスの4つ

デジタルスキル標準は、全てのビジネスパーソンを対象とする「DXリテラシー標準(DSS-L)」と、DXを推進する人材向けの「DX推進スキル標準(DSS-P)」で構成されています。

区分 対象 構成の考え方
DXリテラシー標準(DSS-L) 全てのビジネスパーソン Why・What・How・マインド・スタンスの4つの構成要素
DX推進スキル標準(DSS-P) DXを推進する人材 人材類型とロールごとのスキル

出典: IPA デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的/IPA DXリテラシー標準(DSS-L)概要

DSS-Lの4つの構成要素は、Why(DXの背景)、What(DXで活用されるデータ・技術)、How(データ・技術の利活用)、マインド・スタンスです。

全社員向けの研修を考えるなら、まず見るのはDSS-Lです。推進担当者の育成を考える段になってから、DSS-Pを参照するという順序になります。

2026年4月のver.2.0でAI実装・運用とAIガバナンスのスキルを新設

デジタルスキル標準は更新されています。2026年4月にver.2.0が公表され、データマネジメント類型の新設、ビジネスアーキテクト類型とデザイナー類型のロール再定義、AI実装・運用やAIガバナンスに関するスキルの新設、ロールごとのスキル重要度の見直しが行われました。

この内容はIPAのプレス発表に記載されています。

押さえておきたいのは、AIガバナンスがスキルとして明示された点です。使い方だけでなく、組織として管理する観点が標準の側に入ってきました。

社内研修でも、操作の手順と同じ比重で、入力してよい情報の範囲や出力の確認手順を扱う根拠になります。古い版を参照している教材もあるため、版の確認は忘れないでください。

生成AIに関する記載はver.1.1以降に段階的に追加されてきた

生成AIの記載は、ver.2.0で突然加わったものではありません。DX推進スキル標準は2024年7月8日公開のver.1.2でビジネスアーキテクトに関する補記や生成AIに関する補記などが追加されており、生成AI関連の記載はver.1.1(2023年8月)以降、段階的に行われてきました。

更新の経緯はDX推進スキル標準(DSS-P)概要ページの更新履歴で確認できます。

この経緯が分かると、社内教材の扱い方が決めやすくなります。標準そのものが段階的に更新される前提なので、研修資料も年1回は版を照合する運用が現実的です。

一度作って終わりにせず、更新履歴を見る担当を決めておくとよいでしょう。

出典: IPA プレス発表 デジタルスキル標準ver.2.0を公開(2026年4月16日)

生成AI利用で求められるマインド・スタンスは3点に整理されている

研修で何を伝えるかは、デジタルスキル標準の記載に沿って決められます。ここでは生成AIに直接関わる部分を見ます。

抽象的に見える項目も、業務の場面に置き換えると具体的な学習内容になります。

スキルとの掛け合わせ・リスクの理解・学び続ける姿勢の3点

デジタルスキル標準には2023年8月改訂の補記として「生成AI利用において求められるマインド・スタンス」が示され、3点が挙げられています。

項目 記載されている内容
スキルとの掛け合わせ 生成AIを「問いを立てる」「仮説を立てる・検証する」等のスキルと掛け合わせて利用しようとしている
リスクの理解 期待しない結果の出力、著作権等の権利侵害、情報漏洩、倫理的問題への注意が必要と理解している
学び続ける姿勢 生成AIの普及による変化にアンテナを張り、学び続けている

出典: デジタルスキル標準 ver.2.0(2026年4月、IPA)

1点目は、生成AIを魔法の道具として扱わない姿勢を示しています。問いの立て方や検証のしかたと組み合わせて使う、という位置づけです。

研修の到達目標をこの3点に合わせると、「触ってみた」で終わらない設計にしやすくなります。

学習項目例には生成AIの利用方法・利用事例・トラブル対策が含まれる

DXリテラシー標準には、学習項目例も示されています。該当する項目は次のとおりです。

区分 学習項目例として記載されている内容
AIの理解 AIの仕組みを理解し、AIができること、できないことを知っている
デジタル技術 生成AIの利用方法/生成AIの利用事例
セキュリティ ネット被害・SNS・生成AI等のトラブルの事例・対策
データの扱い データ利用における禁止事項・留意事項

出典: デジタルスキル標準 ver.2.0(2026年4月、IPA)

研修の章立てを一から考えなくても、この学習項目例に沿って並べれば骨格ができます。

利用方法と利用事例で使い方を伝え、トラブルの事例・対策と禁止事項で線引きを伝える、という構成です。社内の資料を作る際は、各章がどの学習項目に対応するかを表にしておくと、説明が通りやすくなります。

IPAは業務の中でAIを使いこなす人材の不足を課題として挙げている

IPAは、AIを開発する人材だけでなく「AIを活用してサービスを提供する人材」「業務の中でAIを使いこなす人材」が不足しているとして、スキルの定義、教材情報の提供、先進人材の育成に取り組んでいると説明しています。

あわせて、経済産業省の検討会が2023年8月に「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」を公表したことを踏まえ、デジタルスキル標準とITパスポート試験シラバスに生成AIの記載を追加したとしています。この説明はIPAのAI利活用のための人材育成のページに記載されています。

ここで示されている課題認識は、中小企業の実務感覚とも重なります。開発者を採る話ではなく、今いる人が業務で使いこなせるかという話です。

研修の対象者を情報システム担当だけに絞らず、現場の業務担当まで広げる根拠になります。

出典: IPA AI利活用のための人材育成

DX推進人材の量の不足は85.5%、AI関連人材も多くの種別で不足が過半数

人材が足りないという実感は、調査でも裏づけられています。ただし、不足の中身を分けて見ると、打ち手の方向が変わります。

この節では、IPAの調査が示す不足の内訳を確認します。

人材の量の不足85.5%は2023年度・2024年度調査とほぼ同水準

DXを推進する人材の「量」の確保状況について、「やや不足している」「大幅に不足している」の合計は85.5%でした。この水準は2024年度調査・2023年度調査とほぼ同じです。

同一調査の経年比較としてIPAのプレス資料に示されています。

3年続いてほぼ同水準というのは、採用で解消しきれていない状態が続いていることを示唆します。ただし、調査は原因までは示していません。

実務の判断としては、人が増える前提の計画を立てないほうが安全です。今いる人数で回る範囲に対象業務を絞る、という設計が現実的になります。

AI関連人材のうち経営・マネジメント層と活用する従業員では不足割合が減少

AI関連人材についても記載があります。多くの人材種別で「不足している」が過半数を占める一方、「AIに理解がある経営・マネジメント層」「AIツールを活用して、自社の事業に活かせる従業員」では、不足の割合が他の種別より減少しています。

この点は、IPAの「DX動向2026」のページでも人材に関する節として整理されています。

読み取れるのは、開発側の専門人材よりも、使う側の人材のほうが先に埋まりつつある可能性です。断定はできませんが、育成の順序を考える材料にはなります。

自社で先に手を付けるとすれば、使う側、つまり業務担当と管理職からになるでしょう。

採用だけでなく既存従業員の育成が選択肢として示されている

IPAは課題への取り組みとして、スキルの定義、教材情報の提供、先進人材の育成を挙げています。採用だけが解決策として示されているわけではありません。

不足が3年続いている状況と合わせて考えると、既存従業員の育成は現実的な選択肢になります。

ここで役立つのが、前の章で見たデジタルスキル標準です。何を教えるかの枠組みが公開されているため、自社でゼロから定義する必要がありません。

一方で、育成にどれだけの時間や費用をかけている企業が多いのかという統計は、今回確認した資料からは分かりませんでした。相場を示す数値は、この記事では扱いません。

出典: IPA 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント(2026年7月16日公表)

個人の生成AI利用率は58.8%、ほぼ毎日使う人は約3割

社内研修を設計するときは、参加者がどの程度使い慣れているかも気になります。個人側の利用状況も、総務省の調査で公表されています。

想定より使われている面と、まだ日常になっていない面の両方が見えてきます。

日本の個人の生成AI利用経験率は58.8%(2025年度調査)

総務省の2025年度調査では、日本における個人の生成AIサービス利用率は58.8%でした。業務・日常生活での利用経験を指し、テキスト生成以外も合計した数値です。

この値は令和8年版情報通信白書の概要資料に記載されています。母集団は日本の個人回答者です。

なお、この数値については設問文や集計対象の詳細を確認できていないため、他の調査との比較には使わないほうがよいと考えられます。

研修を設計する立場から見ると、参加者の半数以上は何らかの形で触れた経験がある可能性があります。入門編だけでは物足りない人が出ることも想定しておきたいところです。

年齢階層別では15〜19歳が91.7%、20〜29歳が78.2%

年齢階層別の数値も公表されています。

年齢階層 生成AIサービスを使っている(過去使ったことがある)割合
15〜19歳 91.7%
20〜29歳 78.2%

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(年齢階層)(2025年度調査)

若い層ほど利用経験の割合が高く、15〜19歳では9割を超えています。

新しく入る社員は、すでに使ったことがある前提で考えたほうが実態に近そうです。そのため研修では、使い方の基礎より、業務で使うときの線引きや確認手順に時間を割く設計が合う場合があります。

一方で、年齢による差は社内のばらつきにもつながります。参加者を一律に扱わず、事前に利用経験を聞いておくと設計しやすくなります。

ほぼ毎日利用する割合は日本が約3割で比較4か国の中で最も低い

利用頻度の結果も押さえておきたいところです。生成AIサービスを利用している人のうち「ほぼ毎日」使う割合は、日本で約3割でした。米国・ドイツ・中国では4割を超えており、比較された4か国の中で日本が最も低い結果です。

日本の年齢別では、20〜29歳が約4割で最も高いと利用頻度の節に記載されています。

つまり、触った経験はあっても、毎日の業務に組み込まれている人は多数派ではありません。

研修の目標を「知ってもらう」で終わらせると、この層はそのまま動きません。特定の業務で週に何回使うかまで決めて、現場に持ち帰れる形にすることが効果につながると考えられます。

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(利用頻度)

社内でAI研修を考えるときに先に確認する3点

ここまでの数値を、実務の順序に落とし込みます。研修の中身を考える前に確認したい点を3つにまとめました。

いずれも、公表されている調査や標準の記載から導ける範囲にとどめています。

活用方針と対象業務を決めてから学習内容を決める

最初に決めるのは教材ではなく、活用方針と対象業務です。

総務省の2025年度調査では、活用方針を定めた企業が日本全体で68.9%、中小企業で58.1%でした。組織的な取組がない企業は27.0%で、中小企業で特に高いと記載されています。

また、中小企業では「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」が最も高い回答でした。経営層が対象業務と目標を示す形が、調査では多く選ばれています。

対象業務の候補としては、活用が最も多い類型である議事録・メール作成補助が挙げられます。素材が社内にあり、成果物の確認も担当者の範囲で完結しやすい業務です。

効果の見方は業務効率化を軸に置き、売上への直結は想定しない

効果の目標は、業務効率化の側に置くほうが調査の実態と合います。

IPAの2025年度調査では、効果の内容として「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%だった一方、「売上や利益が向上した」は3.9%でした。効果の状況も「一定の効果はあった」が50.6%で最多です。

この数値を踏まえると、売上向上を研修の達成目標に据えるのは無理があります。作業時間、手戻りの回数、下書きにかかる工数といった指標のほうが、評価に使いやすいと考えられます。

目標の置き方を先に決めておくと、半年後の振り返りで議論が噛み合います。

学習内容はデジタルスキル標準の学習項目例に対応づけて組み立てる

学習内容は、デジタルスキル標準の記載に対応づけると根拠を示しやすくなります。

生成AI利用において求められるマインド・スタンスは、スキルとの掛け合わせ、リスクの理解、学び続ける姿勢の3点です。学習項目例には、生成AIの利用方法、生成AIの利用事例、ネット被害・SNS・生成AI等のトラブルの事例・対策、データ利用における禁止事項・留意事項が含まれます。

下の表は、研修の章立てを考えるときの対応づけの例です。

研修の章立て(例) 対応する学習項目例・マインド・スタンス
対象業務での使い方 生成AIの利用方法/生成AIの利用事例
入力してよい情報の線引き データ利用における禁止事項・留意事項
出力の確認手順 期待しない結果の出力・権利侵害・情報漏洩への注意
振り返りと更新 変化にアンテナを張り学び続ける姿勢

出典: デジタルスキル標準 ver.2.0(2026年4月、IPA)(章立ての例は公的資料の記載ではなく、学習項目例をもとにした整理です)

出典: 総務省 令和8年版情報通信白書(組織的な取組状況)

この記事の範囲と未解決事項

この記事で検証したのは、総務省とIPAが公表している資料に記載された数値と記述の引用です。各数値の調査年と調査主体、集計から除外された回答区分を、資料の記載に沿って示しました。

一方で、次の内容は主張していません。

  • 社内AI研修の実施率・実施時間・費用の相場。該当する公的統計を確認できていないため扱っていません。
  • 研修費用の助成制度の要件や金額。一次情報を確認できていないため触れていません。
  • 特定の企業の導入実績、特定のサービスの評価、導入による売上への効果。
  • 生成AIを導入すれば効果が出るという因果関係。調査は回答割合を示すもので、因果を示すものではありません。

未解決事項として、次の6点を残しています。

  1. 記事の題材業務を議事録に確定するかどうかは未決です。日本企業の活用が最も多い業務類型が議事録・メール作成補助(約7割)である点は根拠になりますが、題材の確定は企画側の判断が必要です。
  2. 社内AI研修の実施率・実施時間・費用の相場に該当する公的統計を確認できていません。この記事では相場に触れない構成にしています。
  3. 令和8年版情報通信白書における「大企業」「中小企業」の区分基準(従業員数か資本金か)を確認できていません。
  4. 2024年度調査の49.7%と2025年度調査の68.9%について、設問文・選択肢・集計対象が同一かを確認できていません。厳密な経年比較としては扱っていません。
  5. IPA「DX動向2026」の報告書・データ集本体の公開状況と、引用したプレス資料の記載値との整合を確認できていません。
  6. 経済産業省が公開しているデジタルスキル標準のページは、この記事の執筆時点で内容を確認できなかったため出典に含めていません。デジタルスキル標準ver.2.0に関する記述はIPAの公表資料のみを根拠としており、経済産業省側の記載との差異は確認していません。

また、この記事では実際のツールを操作した検証や、研修の実施による効果測定は行っていません。記載はすべて公表資料の内容に基づくものです。

中小企業が生成AIの社内展開を考えるときの要点(まとめ)

生成AIの社内展開は、教材選びから始めると迷いやすくなります。公的な調査が示しているのは、方針と対象業務を先に決めている企業が多数派だという事実です。

活用方針を定めた企業は日本全体で68.9%、中小企業で58.1%でした(総務省2025年度企業向け調査)。活用が最も多い業務類型は議事録・メール作成補助で約7割です。

効果の見方も、調査に沿って置くほうが無理がありません。効果の内容は業務効率化が91.6%、売上や利益の向上は3.9%でした(IPA 2025年度DX動向調査)。

学習内容については、IPAのデジタルスキル標準が拠りどころになります。生成AI利用のマインド・スタンス3点と学習項目例に対応づければ、社内で説明できる形の研修になります。

まずは活用方針を一文で決め、対象業務を1つに絞り、学習内容を標準の項目に対応づける。この順序で進めてみてください。

社内のAI活用と育成の進め方についての相談先

自社の活用方針をどう文章にするか、どの業務から始めるかで迷う場面は多いと思います。

BoostAIメディアでは、公開されている公的資料をもとに、社内でのAI活用と育成の進め方を整理する記事を掲載しています。進め方の相談については、サイト内の問い合わせ窓口からご連絡ください。

個別の状況によって適切な順序は変わります。この記事の内容は判断材料の一つとしてお使いください。

出典一覧

自社で試す前に確認したいこと

  • 自社の生成AI活用方針が文書として存在するか
  • 対象業務を1つに絞れているか
  • 効果の測り方を業務効率化の指標で決めているか
  • 研修の各章がデジタルスキル標準の学習項目例に対応づいているか
  • 入力してよい情報の線引きと出力の確認手順を研修に含めているか

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