【2025年 総務省調査】クラウド導入率は83.5%|推移・業種別/規模別の差と導入目的の変化を解説

クラウド導入の検討を任されたとき、最初につまずくのは「他社はどうしているのか」が分からないことではないでしょうか。比較する基準がないまま資料を作り始めると、社内の議論もかみ合いません。

  • 他社はクラウド導入をどこまで進めているのか分からない
  • 自社の業種や規模だと、どのくらいが普通なのか比べる材料がない
  • 稟議でコスト削減を掲げたが、上に響いている手応えがない

結論から言うと、クラウドを導入するかどうかを議論する段階は、すでに終わっています。総務省の通信利用動向調査によると、2025年調査時点でクラウドを一部でも導入している企業は83.5%です。

なお本記事の数値は、断りがない限りこの調査によるものです(出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙1ほか)。

この記事では、公表されている一次データだけを使って、導入率の推移と業種別・資本金規模別の差を整理します。あわせて導入目的の変化、導入が進まない理由、進め方の判断材料まで扱います。

製品比較は扱いませんが、社内資料にそのまま使える数値と出典を用意しました。

この記事のポイント

  • 2025年調査時点で、クラウドを一部でも導入している企業は83.5%です(総務省 通信利用動向調査)
  • 直近1年で伸びたのは新規導入より全社展開です。全社利用は2024年調査の53.1%から2025年調査の60.0%へ増えました
  • 導入理由で最も伸びたのはコスト削減ではなく拡張性です(2024年調査22.1%→2025年調査28.9%)

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目次

クラウドの導入率は2025年調査時点で83.5%に達している

クラウドの導入率は2025年調査時点で83.5%に達している

まず押さえたいのは、クラウド導入がすでに標準的な状態になっているという事実です。総務省の通信利用動向調査では、2025年調査時点でクラウドサービスを一部でも導入している企業の割合は83.5%でした。

前年の2024年調査は80.6%で、1年で2.9ポイント上がっています(本記事による計算値)。導入していない企業は2割を切っており、未導入であること自体が説明を求められる状況になりました。

なお本記事では、クラウドサービスの仕組みやIaaS・PaaS・SaaSの区分そのものは扱いません。導入の検討に使える実態データに絞って解説します。

ここから言えるのは、情シスが社内に示すべき論点が「導入すべきか」ではなく「どこから、どこまで導入するか」に移っているという点です。 ちなみに2024年の値は、同じ総務省の資料でも80.4%と80.6%の2つが公表されています。本記事は経年比較の基準をそろえるため80.6%を採用しました。この違いは記事後半の「公的統計を社内資料に使うときは出典と集計基準をそろえる」で扱います。

導入率は2010年の14.1%から15年で6倍に伸びた

クラウド導入率の上昇は、ここ数年に始まった動きではありません。2010年調査の14.1%から2025年調査の83.5%まで、15年でおよそ6倍になっています(本記事による計算値)。

クラウド導入率の経年推移

調査年 クラウドサービスを一部でも導入している企業の割合
2010年 14.1%
2016年 46.9%
2017年 56.9%
2018年 58.7%
2021年 70.4%
2022年 72.2%
2023年 77.7%
2024年 80.6%
2025年 83.5%

出典: 2021〜2025年は総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙1、2016〜2017年は同「平成29年通信利用動向調査の結果」、2018年は同「平成30年通信利用動向調査の結果」、2010年は同「平成23年通信利用動向調査の結果」より作成。すべて無回答を除く集計の系列です。2019年・2020年調査分は本記事で公表値を確認できなかったため除いています。

伸び方には2つの局面があります。2010年の14.1%から2016年の46.9%まで6年間で約33ポイント上昇し、2021年以降は70%台から80%台へと高い水準で積み上がってきました(本記事による計算値)。 なお総務省の調査では、この項目は正式には「クラウドコンピューティングサービスの利用状況」として集計され、資料のなかで「クラウドサービス」と略記されています。2025年調査でも呼称は同じです。

ひとつ注意点があります。総務省は、2017年調査から情報通信業を独立した産業として集計した結果、全体に占める情報通信業の比率が上がったため、経年比較には留意が必要だと注記しています。2016年から2017年にかけての約10ポイントの伸びには、この集計変更の影響が含まれます。

直近1年で伸びたのは新規導入ではなく全社展開である

同じ1年の変化でも、内訳を見ると状況が異なります。一部でも導入している企業は、2024年調査の80.6%から2025年調査の83.5%へ2.9ポイントの増加にとどまりました(本記事による計算値)。

これに対し全社的に導入している企業は、53.1%から60.0%へ6.9ポイント増えています(本記事による計算値)。

全社利用と一部利用の内訳

この2つの数値から読み取れるのは、直近の導入率上昇が未導入企業の新規参入よりも、すでに部分導入していた企業の全社展開を強く反映しているという構図です。伸び幅が2倍以上違うため、単純な新規導入の積み上がりでは説明がつきません。

それでも2025年調査時点で、一部の事業所または部門にとどまる企業は23.5%あります。導入の実務論点は「導入するかどうか」から「どこまで広げるか」へ移ったと考えられます。

なお全体値と内訳は、総務省が同じ資料のなかで無回答を除いて集計した系列です。2025年調査では全社利用60.0%と一部利用23.5%の合計が、全体の83.5%と一致します。基準がそろっているため、この2つのポイント差はそのまま比べられます。

この83.5%は常用雇用者100人以上の企業を対象にした数値

自社と比べる前に、母集団を確認しておく必要があります。通信利用動向調査(企業編)の対象は、公務を除く産業に属する常用雇用者規模100人以上の企業です。

さらに調査対象の産業は、建設業、製造業、情報通信業、運輸業・郵便業、卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、サービス業その他の8区分に限られます。農林漁業、鉱業、電気・ガス・熱供給・水道業などは対象に含まれません。

つまり2025年調査の83.5%は、従業員100人以上の企業の姿を示した数値です。従業員100人未満の企業はこの調査の外側にいるため、数値をそのまま自社に当てはめることはできません。

この点は資本金規模別の数値にも影響します。2025年調査で資本金1,000万円未満の企業の導入率は75.4%ですが、これも「資本金は小さいが従業員は100人以上」という企業の値です。

注意

本記事で扱う導入率は、いずれも常用雇用者100人以上の企業を対象とした調査の値です。従業員数がこれを下回る企業の導入実態は、この統計では分かりません。社内資料に引用するときは、母集団の条件も一緒に書いておくと誤読を防げます。

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙1同 別紙2総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」総務省「令和7年版情報通信白書」同「平成29年通信利用動向調査の結果」同「平成23年通信利用動向調査の結果」


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業種別・資本金規模別で導入率には20ポイント前後の差が残っている

業種別・資本金規模別で導入率には20ポイント前後の差が残っている

全体の83.5%という数値は、あくまで平均です。自社の立ち位置を測るなら、業種と資本金規模で切った数値を見たほうが実態に近づきます。

2025年調査では、業種別の最上位は金融・保険業の96.2%、最下位は運輸業・郵便業の78.3%でした。資本金規模別では、50億円以上が99.8%、1,000万円未満が75.4%です。

いずれも20ポイント前後の幅があり、平均値だけで「自社は遅れている」と判断すると読み違えます。ここからは業種別、資本金規模別の順に、差の中身を見ていきます。

ポイント

  • 2025年調査の業種間の差は、金融・保険業96.2%と運輸業・郵便業78.3%の17.9ポイントです(本記事による計算値)
  • 資本金規模の差は縮小中で、最小層と最大層の開きは38.3ポイントから24.4ポイントへ縮まりました(本記事による計算値)
  • どちらのセグメントも標本数が小さく、単年の順位変動をそのまま実態の変化と読むことはできません

業種間の差は金融・保険業96.2%と運輸業・郵便業78.3%の17.9ポイント

業種による差は残っていますが、上位と下位の関係は動いています。2025年調査の最大差は、金融・保険業96.2%と運輸業・郵便業78.3%の17.9ポイントです(本記事による計算値)。

業種別クラウド導入率

業種(2025年調査) クラウド導入率
金融・保険業 96.2%
情報通信業 94.8%
不動産業 90.9%
建設業 89.2%
製造業 85.6%
卸売・小売業 83.6%
サービス業、その他 79.3%
運輸業・郵便業 78.3%

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2図表4-2より作成(無回答を除く集計)。

伸びているのは下位業種のほうです。運輸業・郵便業は2024年調査の72.6%から5.7ポイント伸びた一方、情報通信業は96.0%から94.8%へと動いています(本記事による計算値)。

この動きから読み取れるのは、上位業種にはもう伸び代がほとんど残っていないという点です。「業種平均に追いつく」という稟議の書き方は、9割台の業種では成立しません。下位業種でも平均自体が毎年動く前提で見る必要があります。

なお2024年と2025年の業種別の値は、別紙2の図表4-2に同じ基準で並べて示されたものです。 ただし業種別の標本数は小さく、2025年調査では金融・保険業がn=178、情報通信業がn=270、運輸業・郵便業がn=372でした。総務省は分類項目ごとの標本誤差も公表しており、2024年調査の報告書では情報通信業が±5.8ポイント(信頼度95%)とされています。情報通信業の1.2ポイント低下は、この幅に収まる大きさです。

資本金1,000万円未満は1年で13.9ポイント伸び、規模による差は縮んでいる

資本金規模別で最も動いたのは、最小層です。1,000万円未満は2024年調査の61.5%から2025年調査の75.4%へ、1年で13.9ポイント伸びました(本記事による計算値)。

資本金規模別クラウド導入率

資本金規模 2024年調査 2025年調査
1,000万円未満 61.5% 75.4%
5,000万〜1億円未満 85.8% 83.1%
5億〜10億円未満 99.1% 92.5%
50億円以上 99.8% 99.8%

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2図表4-2より作成。2024年・2025年とも無回答を除く同一基準の集計です。

最大層は99.8%で横ばいのため、最小層との差は38.3ポイントから24.4ポイントへ縮まりました(本記事による計算値)。一方で5,000万〜1億円未満は85.8%から83.1%へ、5億〜10億円未満は99.1%から92.5%へと前年を割っています。

この並びから読み取れるのは、資本金の大小と導入率が順番どおりに並ばなくなっているという事実です。「うちの規模ではまだ早い」という判断の根拠は、少なくとも公表値の上では弱くなっています。

ただし資本金規模別のセグメントは標本数が小さい点に注意が必要です。1,000万円未満は2024年n=122・2025年n=100、5億〜10億円未満は2024年n=48・2025年n=65しかありません。総務省が公表する標本誤差でも、資本金5億〜10億円未満は±13.8ポイント(信頼度95%)と、全体の±2.0ポイントを大きく上回ります。中位層の前年割れは標本誤差だけでも生じうる水準で、実態の変化を示していない可能性が高いと考えられます。

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」


クラウド導入の目的で伸びているのはコスト削減ではなく拡張性と可用性

クラウド導入の目的で伸びているのはコスト削減ではなく拡張性と可用性

稟議や社内説明の材料を探しているなら、一般論のメリット一覧よりも、実際に導入した企業が挙げた理由を見たほうが確実です。総務省の調査では、クラウドを導入した理由を複数回答で聞いています。

2025年調査で最も多かったのは「場所、機器を選ばずに利用できるから」で50.7%でした。次いで「安定運用、可用性が高くなるから」が45.1%、「資産、保守体制を社内に持つ必要がないから」が42.8%と続きます。

一方で「既存システムよりもコストが安いから」は19.4%にとどまります。社内説明の軸をどこに置くかを考えるうえで、この順位はそのまま材料になります。

ポイント

  • 2025年調査の導入理由1位は「場所、機器を選ばずに利用できるから」で50.7%
  • 2024年調査から最も伸びたのは拡張性(22.1%→28.9%)と可用性(40.4%→45.1%)
  • コストの安さは2025年調査で19.4%にとどまり、下位のまま動いていません

導入理由の1位は「場所、機器を選ばずに利用できる」で50.7%

導入理由の全体像を見ておきましょう。2025年調査でクラウドを導入している企業が挙げた理由は、次のとおりです。

クラウドを導入する理由

導入理由(2025年調査、複数回答) 選択率
場所、機器を選ばずに利用できるから 50.7%
安定運用、可用性が高くなるから 45.1%
資産、保守体制を社内に持つ必要がないから 42.8%
災害時のバックアップとして利用できるから 38.7%
サービスの信頼性が高いから(情報漏えいなど対策) 35.0%
システムの拡張性が高いから(スケーラビリティ) 28.9%
既存システムよりもコストが安いから 19.4%

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2図表4-4より作成。クラウドを利用している企業(n=2,131)が分母の複数回答です。

上位3つは、働く場所の自由度、止まりにくさ、社内で機器と保守要員を抱えなくてよいこと、という運用面の理由で占められています。 複数回答のため合計は100%を超えませんが、それぞれの選択率がそのまま社内での説得力の目安になります。

導入理由として挙がる項目は、裏を返せば導入後に評価される項目でもあります。自社の目的がこの上位群と重なっているかを、検討の初期に確認してみてください。

コスト削減を理由に挙げた企業は19.4%にとどまる

変化の幅で見ると、主役はコストではありません。2024年調査から2025年調査にかけて、拡張性は22.1%から28.9%へ6.8ポイント伸びました。可用性も40.4%から45.1%へ4.7ポイント上がっています(本記事による計算値)。

導入理由の変化幅

これに対し、コストの安さは2024年調査の19.1%から2025年調査の19.4%へ0.3ポイント動いただけで、下位のままです(本記事による計算値)。首位の「場所、機器を選ばずに利用できるから」も2021年調査の50.2%から2025年調査の50.7%とほぼ横ばいでした。

この構成から読み取れるのは、いま導入を後押ししているのが需要変動への追随性とサービスの止まりにくさだという点です。稟議でコスト削減を主軸に据えると、実際の導入企業が挙げる理由の構成とはずれてしまいます。

ただし、これらはいずれも複数回答の設問で、選択肢の並び順や文言が変われば選択率も動きます。拡張性と可用性は2021〜2023年分の値を確認できておらず、実質2年分の比較にすぎない点にも注意してください。

なお2024年と2025年の値は、いずれも別紙2の図表4-4に同じ基準で並べて示されたものです。総務省自身も、拡張性の前年からの増加が最も大きいと述べています。

導入して効果があったと答えた企業は89.4%で5年間高止まりしている

導入後の評価も見ておきましょう。2025年調査では「非常に効果があった」が36.0%、「ある程度効果があった」が53.5%で、合計89.4%の企業が効果を認めています。内訳の単純合計は端数処理の影響で0.1ポイントずれます。

クラウドの利用効果の推移

調査年 効果があったと回答した企業の割合
2021年 88.2%
2022年 89.0%
2023年 88.4%
2024年 87.3%
2025年 89.4%

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2ほか各年の調査結果より作成。クラウドを利用している企業が分母です。2021〜2023年と2025年は無回答を除く集計、2024年のみ令和6年報告書図表3-5(無回答を含む集計)の値で、他の年よりわずかに低めに出ます。

5年間87%台から89%台の範囲で安定しており(本記事による計算値)、後から導入した企業でも得られる評価は変わっていないと読めます。 ただし回答しているのは導入を決めた側の企業であり、評価が高めに出やすい設問である点は割り引いて見る必要があります。

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」総務省「令和3年通信利用動向調査報告書(企業編)」同「令和4年」同「令和5年」


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クラウド化が進んでいるのは情報共有の領域で、基幹業務は遅れている

クラウド化が進んでいるのは情報共有の領域で、基幹業務は遅れている

導入率83.5%という数値を、「全社のシステムがクラウドに載っている状態」と読むと実態から離れます。何にクラウドを使っているかを見ると、偏りがはっきり分かります。

2025年調査で最も多い用途は「ファイル保管・データ共有」で73.3%です。一方、「受注販売」は16.8%にとどまります。

つまり現在のクラウド利用は、業務データの共有基盤を中心に広がっている状態です。 自社の検討対象がどちらの領域なのかで、参考にすべき数値も変わります。

用途の首位はファイル保管・データ共有で73.3%

用途別の内訳を確認しましょう。2025年調査でクラウドを利用している企業が挙げた用途は、次のとおりです。

クラウドで利用している業務

利用している業務(2025年調査、複数回答) 選択率
ファイル保管・データ共有 73.3%
社内情報共有・ポータル 61.4%
電子メール 57.4%
給与、財務会計、人事 56.3%
スケジュール共有 53.6%
データバックアップ 46.4%
受注販売 16.8%

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2図表4-3より作成。クラウドを利用している企業(n=2,133)が分母の複数回答です。

上位4項目のうち3つが、ファイル・情報・メールという共有の仕組みです。 首位のファイルサーバーのクラウド化は、クラウド利用企業の4分の3近くが通ってきた道といえます。

この割合はクラウドを利用している企業を分母にした数値です。全企業に対する浸透度を見るときは、導入率83.5%と掛け合わせて考える必要があります。

受注販売は16.8%にとどまり、導入率83.5%は基幹業務のクラウド化率ではない

用途の下位に目を移すと、別の姿が見えます。2025年調査で受注販売にクラウドを使っている企業は16.8%で、上位用途の6〜7割台とは大きく開いています。給与、財務会計、人事も56.3%と、ファイル保管・データ共有の73.3%には届きません。

この用途構成は、導入理由の首位が「場所、機器を選ばずに利用できるから」50.7%であることと整合的です。どちらが原因かは本データからは特定できませんが、共有基盤から広がってきた経緯とは矛盾しません。

ここから言えるのは、導入率の高さを根拠に基幹システムの移行まで一般化するのは飛躍だということです。 社内で「他社はもうクラウドに移行している」と説明するときは、どの領域の話かを切り分けてください。

注意

受注販売のように業種依存の強い用途は、そもそも該当業務を持たない企業が多く、低い値が移行の遅れを意味するとは限りません。また公表資料の用途区分は粗く、SaaSの利用と自社システムのIaaS移行が同じ枠に入ります。「基幹業務がクラウドに載っていない」ことを直接示す証拠としては使えない点にご注意ください。

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2同 別紙1


クラウド導入が進まない理由の首位は「必要がない」で46.0%

クラウド導入が進まない理由の首位は「必要がない」で46.0%

導入が進まない理由も、一般論のデメリット一覧ではなく、導入していない企業自身の回答で確認できます。2024年調査で非利用企業(n=171)が挙げた理由は、次のとおりです。

導入しない理由(2024年調査、複数回答) 選択率
必要がない 46.0%
クラウドの導入に伴う既存システムの改修コストが大きい 29.6%
情報漏えいなどセキュリティに不安がある 24.9%
ネットワークの安定性に対する不安がある 14.7%

出典: 総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」図表3-6より作成。クラウドを利用していない企業(n=171)が分母の複数回答です。

首位は「必要がない」の46.0%で、2位の改修コスト29.6%に16.4ポイントの差をつけています(本記事による計算値)。

セキュリティ不安は24.9%で3番目です。社内で想定されがちな反対理由と、実際の回答には開きがあります。

セキュリティ不安は2年で6.3ポイント下がって24.9%になった

技術面・安全面の懸念は、障壁として後退しています。セキュリティ不安とネットワークの安定性への不安は、いずれも2022年調査から2024年調査にかけて下がりました。

クラウドを導入しない理由の推移

調査年 セキュリティに不安 ネットワークの安定性に不安
2022年 31.2% 19.0%
2023年 24.2% 15.2%
2024年 24.9% 14.7%

出典: 総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」図表3-6より作成。クラウドを利用していない企業(2022年n=256、2023年n=224、2024年n=171)が分母の複数回答です。

セキュリティ不安は2年で6.3ポイント、ネットワークの安定性への不安は4.3ポイント下がりました(本記事による計算値)。 クラウド事業者の対策やサービス品質に対する見方が、以前ほど否定的ではなくなっていると読めます。

ただしセキュリティ不安は、2023年調査の24.2%から2024年調査の24.9%へ0.7ポイント戻しています(本記事による計算値)。単調に下がり続けているわけではない点は押さえておいてください。

なお2025年調査分の非利用理由はまだ確認できていないため、直近の動きまでは追えていません。

「必要がない」は46.0%まで上がり、説得すべき論点が変わっている

下がる項目がある一方で、上がり続けている項目があります。「必要がない」は2022年調査で42.0%、2023年調査で44.7%、2024年調査で46.0%でした。2年で4.0ポイントの上昇です(本記事による計算値)。

この対比から読み取れるのは、社内でクラウド化が進まない原因を安全面の懸念だと想定するのは、もはや的を外しやすいという点です。実際に向き合うべき抵抗は「今の仕組みで困っていない」という判断です。説得材料は安全性の説明ではなく、業務上の必要性の提示に置き換えてください。

2番目の理由である既存システムの改修コスト29.6%も、必要性の議論と関連しています。移行の費用対効果を語る前に、オンプレミスとの違いを踏まえて現行運用のどこに無理が出ているかを整理してみてください。

注意

この推移には、母数そのものが縮んでいるという事情があります。非利用企業の回答数は2022年調査のn=256から2024年調査のn=171へ減っており、導入に前向きな企業から順に非利用企業の母数を抜けていくため、残った企業が必要性の低い側に偏るという構成変化だけでも同じ動きが観測されます。個々の企業のセキュリティ不安が薄れたとは限らない点にご注意ください。

出典: 総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」


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クラウド導入は情報共有の領域から段階的に広げる進め方が実態に沿う

クラウド導入は情報共有の領域から段階的に広げる進め方が実態に沿う

導入の進め方については、実務上おおむね次の流れが一般的です。ここは公的データではなく、一般的なプロジェクトの手順として整理しています。

  • 現行システムと業務の棚卸し(対象範囲と依存関係の確認)
  • 導入目的の整理(社内で合意する評価軸を決める)
  • サービスの選定(要件と運営基準の確認、責任範囲の確認)
  • 移行(対象を絞った試行から本番展開へ)
  • 運用(権限管理、教育、利用状況の点検)

この流れ自体は目新しくありませんが、どこから着手するかの判断は公的データで裏づけられます。 2025年調査の全社利用60.0%と用途別の首位73.3%が、その手がかりです。

ポイント

  • 2025年調査時点で全社利用は60.0%、一部の事業所・部門での利用が23.5%あり、段階展開が一般的です
  • 最初の対象は、導入実績の厚い情報共有系の業務が現実的です
  • 見積もりで外しやすいのは既存システムの改修コストで、2024年調査では非利用企業の29.6%が障壁に挙げています

全社利用60.0%に対し一部の事業所・部門での利用が23.5%あり、段階展開が一般的

最初から全社一括で切り替える必要はありません。2025年調査では、全社的に利用している企業が60.0%、一部の事業所または部門で利用している企業が23.5%でした。

全社利用は2024年調査の53.1%から6.9ポイント伸びています(本記事による計算値)。一方で導入企業全体は83.5%に達しており、そのうち一定数が部分導入の段階にとどまっている計算になります。

この構成から読み取れるのは、多くの企業が一部部門から始めて全社に広げているという進め方です。部分導入は途中経過であり、失敗でも中途半端でもありません。 社内で「やるなら全社一斉に」という前提が置かれているなら、この数値は方針を見直す材料になります。

最初の対象は利用実績の多い情報共有系の業務が現実的

着手順序を決めるとき、用途別の数値は「他社の実績が厚い領域はどこか」を教えてくれます。実績が厚い領域は社内の合意形成が通りやすく、参考情報や運用ノウハウも集めやすい領域です。

2025年調査の用途別割合を、着手のしやすさという観点で並べ替えると次のようになります。

  • 実績が特に厚い情報共有系: ファイル保管・データ共有73.3%、社内情報共有・ポータル61.4%、電子メール57.4%
  • 実績のある業務系・情報共有系: 給与、財務会計、人事56.3%、スケジュール共有53.6%、データバックアップ46.4%
  • 実績が薄い基幹業務系: 受注販売16.8%

実務的に見れば、前例の少ない領域から着手すると、要件定義や移行設計の負荷がそのまま自社の工数に跳ね返ります。 受注販売のように16.8%の領域を最初の対象に選ぶなら、期間と人員をあらかじめ厚めに見積もってください。

なお給与、財務会計、人事のように業務ごとにSaaSが揃っている領域は、実績の数値以上に着手しやすい場合もあります。数値は順序を決める材料の一つとして扱ってください。

既存システムの改修コストは非利用企業の29.6%が障壁に挙げている

移行の見積もりで最も外しやすいのが、既存システム側の改修コストです。2024年調査では、クラウドを導入していない企業の29.6%がこれを理由に挙げました。

一方、2025年調査で導入企業がコストの安さを理由に挙げた割合は19.4%にとどまります。「資産、保守体制を社内に持つ必要がないから」は42.8%と2倍以上でした。導入した側も、金額そのものより保守の持ち方の変化を評価しています。

この対比から言えるのは、費用対効果の説明を「安くなる」で組むと反論に耐えにくいという点です。稟議には「保守の持ち方が変わる」という軸を置き、機器更改とその作業工数がどう変わるかを書いたほうが、実際の評価と合います。

改修コストは初期の一度きりで、保守体制の変化は毎年効いてきます。比較する期間をそろえて示すと、議論が噛み合いやすくなります。

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2同 別紙1総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」


選定時は事業者の運営基準と責任の分界点を契約前に確認する

選定時は事業者の運営基準と責任の分界点を契約前に確認する

サービス選定については、本記事では製品ごとの比較表を作りません。一次データで裏づけられる比較軸がないため、公的機関が示す確認項目に置き換えて解説します。

確認の軸になるのは、導入企業が実際に期待している項目です。2025年調査では、35.0%の企業が「サービスの信頼性が高いから(情報漏えいなど対策)」を導入理由に挙げました。「災害時のバックアップとして利用できるから」も38.7%あります。

期待されている項目は、そのまま契約前に確かめるべき項目でもあります。 2024年調査では、導入していない企業の24.9%がセキュリティ不安を挙げています。社内説明でもこの部分の確認結果が求められます。

信頼性35.0%・災害時のバックアップ38.7%が導入理由に挙がっている

まず、選定で何を見るべきかは導入企業の期待から逆算できます。2025年調査では、安定運用や可用性が高くなることを45.1%の企業が導入理由に挙げました。災害時のバックアップとして利用できることは38.7%、サービスの信頼性が高いことは35.0%です。

いずれも、導入後に「思っていたのと違う」となりやすい項目です。可用性の水準、障害時の復旧目標、バックアップの保存世代と保存場所は、契約前に数値で確認しておきたいところです。

信頼性や可用性は期待値として実際に選ばれている以上、選定時に確かめる対象でもあります。 サービス紹介資料の表現ではなく、SLAや利用規約に書かれている条件を読んでみてください。

IPAはクラウド利用時の追加対策として事前調査と責任範囲の明確化を挙げている

セキュリティ面の確認項目は、公的機関の資料が参考になります。情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」を見てみましょう。同書はクラウドサービスを利用する場合に、「情報セキュリティ対策の基本」に上乗せする形で次の4つの対策を行うよう示しています。

いずれも数値ではなく定性的な記述です。

契約前・運用中に確認したいこと

  • クラウドの選定(選定前の事前調査): クラウドサービスのガイドラインに沿った運営をしている業者やサービスを選定する
  • 責任範囲の明確化(理解): 契約する際に、インシデント発生時に誰(どの組織)がどこまで対応する責任があるのかを明確にしておく
  • 代替案の準備: クラウドが停止しても業務が止まらないよう代替策を用意する
  • 設定の見直し: 更新情報を常に確認し、仕様変更で意図せず変わった設定を適切な状態に戻す

参考: IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」表1.3IPA「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」

責任の分界点は、障害や情報漏えいが起きてから確認しても遅い項目です。 事業者側の対策範囲と自社側の設定責任がどこで切れるのかを、契約書と設定ガイドの両方で確かめておいてください。あわせて、停止時の代替手段と、仕様変更のたびに設定を点検する体制も決めておくと安全です。

出典: IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」


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公的統計を社内資料に使うときは出典と集計基準をそろえる

公的統計を社内資料に使うときは出典と集計基準をそろえる

最後に、ここまでの数値を稟議書や社内提案に引用するときの注意点をまとめます。同じ調査でも、参照する資料によって数値が少し違うことがあるためです。

たとえば2024年のクラウド導入率は、令和6年通信利用動向調査報告書の図表3-2では80.4%、令和7年版情報通信白書では80.6%と公表されています。差はわずかですが、扱い方を間違えると資料の説得力を落とします。

本記事では、2024年の値として80.6%を採用しています。 2021年から2025年までを1本の系列で示した総務省の資料でも2024年は80.6%とされており、経年比較の基準がそろうためです。

同じ2024年調査でも80.4%と80.6%の2つの値が公表されている

数値が分かれるのは、導入率だけではありません。2024年調査の導入理由でも、資料によって次のような差があります。

2024年調査の項目 報告書(無回答を含む集計) 別紙2・白書(無回答を除く集計)
クラウドを一部でも導入している企業の割合 80.4% 80.6%
場所、機器を選ばずに利用できるから 50.1% 50.2%
資産、保守体制を社内に持つ必要がないから 42.5% 42.6%

出典: 総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙2総務省「令和7年版情報通信白書」より作成。

原因は、無回答を含む集計と無回答を除く再集計が併存していることです。いずれも総務省の同一調査に由来する数値で、調査結果が食い違っているわけではありません。

この差から読み取れるのは、単年の紹介であれば実務上の影響がほとんどないという点です。問題になるのは複数年を1本の系列に混ぜたときで、実際には起きていない増減を作ってしまいます。社内で経年グラフを作るときは、系列ごとに出典をそろえてください。

なお0.1〜0.2ポイントの差は端数処理でも生じます。調査の信頼性を疑う論拠としては使えません。

2019年・2020年の欠測と100人未満企業の空白は性質が違う

データが「無い」ときも、理由によって扱いが変わります。導入率の系列は2018年調査の58.7%から2021年調査の70.4%へ飛んでおり、コロナ禍前後の変化を同一系列で追えません。

これは本記事で公表値を確認できなかったことによる欠測で、追加で資料をたどれば埋まる可能性があります。一方、常用雇用者100人未満の企業は調査対象の定義上そもそも取得されておらず、資料を探しても出てきません。

2025年調査の資本金1,000万円未満75.4%も、あくまで従業員100人以上の企業の値です。全体の83.5%と同じく、母集団の条件が付いた数値だと理解しておいてください。

注意

「公的データに無い」を「存在しない事実」と読み替えないでください。 追加収集で埋まる欠測と、調査対象の定義上そもそも取得されない空白は性質が異なります。従業員100人未満の自社の立ち位置を測りたい場合は、同業の事例やベンダーが公表する導入実績など、別の材料で補う必要があります。

出典: 総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」総務省「令和7年版情報通信白書」総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙1


まとめ

まとめ

クラウド導入をめぐる論点は、この数年で明らかに移りました。2025年調査時点で導入率は83.5%に達し、検討すべきは導入の是非ではなく展開範囲になっています。

本記事の要点は次の4つです。

  • 直近で伸びているのは新規導入より全社展開で、全社利用は60.0%に達しています
  • 稟議の軸はコスト削減より拡張性や可用性が実態に合います。拡張性を挙げた企業は28.9%まで伸びました
  • 社内が動かない原因はセキュリティ不安ではなく「必要がない」という判断で、46.0%が首位です
  • 数値を社内資料に使うときは、母集団と集計基準をそろえて引用します

まずは自社が全社利用と部分利用のどちらの段階にいるかを確認し、次に広げる領域を1つ決めるところから始めてみてください。 情報共有系の業務から着手するなら、社内の前例も外部の情報も揃っています。

出典: 総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」別紙1同 別紙2総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」


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