【IPA調査】新任情シスの90日育成計画|OJT課題と到達確認の記入例(2025年度 人材像の周知16.2%・評価基準なし76.1%)


来月から新しい担当者が情シスに加わる。そう決まったのに、何をどの順で教えるかは決まっていない。そんな状態で受け入れ日が近づいていませんか。

  • 目の前の運用に追われて、育成の準備が後回しになっている
  • 教えたい内容は思いつくが、順番と期限を決められない
  • 「だいたいできるようになった」の判断が、自分の感覚頼りになっている

結論から書きます。育成計画でつまずく原因は、教える内容ではなく「目指す状態」と「到達したかどうかの判定」が決まっていないことにあります。 この2つを先に決めると、OJTの中身は日々の業務からそのまま割り付けられます。

この記事では、IPA・経済産業省・総務省の公的調査だけを根拠に、育成計画の組み立て方と記入例を示します。なお本記事が使う「90日」という区切りは、統計上の標準期間ではありません。実務で扱いやすい単位として、編集部が置いたものです。

この記事のポイント

  • 企業の人材課題は「頭数の不足」より「求める水準に届く人がいない」側に移っている(DXに取組んでいる企業のうち、人材の「質」が不足していると答えた企業は2025年度時点で88.8%。出典: IPA「DX動向2026」)
  • 育成が止まる原因は入口と出口の不在にある(目指す人材像を設定し社内に周知している企業は16.2%、人材の評価基準が「ない」企業は76.1%。いずれも2025年度・同調査)
  • 本記事の「90日」は統計上の標準期間ではなく、実務で扱いやすい単位として編集部が設定した区切り(今回確認した官公庁統計の範囲では、立ち上がり期間を問う調査項目は見当たりませんでした)

この記事を読み終えると、新任担当者の90日分のOJT課題と到達確認を、自社の書式に写せる形で用意できます。


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目次

情シスの人材課題は、頭数の確保より育成の設計に移っている

情シスの人材課題は、頭数の確保より育成の設計に移っている

育成が後回しになるのは、あなたの職場だけの事情ではありません。企業が抱える人材課題の重心が、人数の確保から育成の設計へ移っていることは、公的な調査に表れています。

IPA「DX動向2026」の2025年度調査を見てみます。DXに取組んでいると回答した企業のうち、人材の「量」が不足していると答えた企業は85.5%でした。この数値は「やや不足」と「大幅に不足」の合計です。

「質」が不足していると答えた企業は88.8%で、量より高い水準です。

採用や異動で人数を埋めても、必要な水準に届くかどうかは別の問題です。このセクションでは、不足感の推移と従業員規模による差を順に見ていきます。

ポイント

  • DXを推進する人材の不足感は、2025年度時点で「量」85.5%・「質」88.8%(IPA。DXに取組んでいると回答した企業が対象)
  • 「量が大幅に不足」の回答は2023年度から2025年度にかけて下がり、「質」の不足合計は上がっている
  • 従業員100人以下の企業では、「量」より「質」の不足を訴える企業のほうが多い

DX人材の不足を訴える企業は2025年度時点で「量」85.5%・「質」88.8%

まず水準を押さえます。DXに取組んでいる企業に限ると、人材の不足感は量・質のどちらも8割台後半にのぼります。 半数前後の企業は「大幅に不足」と答えています。

IPA「DX動向2026」の2025年度調査の結果は、次のとおりです。「やや不足」を含めた合計と、「大幅に不足」だけの割合を分けて示します。

不足している対象 やや不足+大幅に不足 うち「大幅に不足」
人材の「量」 85.5% 50.1%
人材の「質」 88.8% 52.9%

出典: IPA「DX動向2026」(2025年度調査。DXに取組んでいると回答した企業が対象)

いずれも母数は、DXに取組んでいると回答した企業です。自社がDXに取組んでいるかどうかを問わず当てはまる数値ではない点に注意してください。この数値をどう読むかは、次で見ていきます。

「量が大幅に不足」は2023年度62.1%から2025年度50.1%へ12.0ポイント下がった

不足の内訳は、3年間で動いています。「量が大幅に不足」と答えた企業は、2023年度62.1%、2024年度58.5%、2025年度50.1%と下がりました。

一方で「質」の不足合計は、2024年度86.1%から2025年度88.8%へ上がっています。「量」の不足合計も2025年度で85.5%と、高い水準が続いています。

図表1: DXを推進する人材の不足感の推移(2023〜2025年度)

出典: IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)

この推移から読み取れるのは、頭数を埋める動きは進んだ一方、必要な水準へ届かせる問題は残っているという点です。新任を迎える側にとっては、配属そのものより配属後の設計が論点になります。

ただし「質」の「大幅に不足」だけを見ると、2024年度58.9%から2025年度52.9%へ下がっています。質が悪化したのではなく、深刻度が「大幅」から「やや」へ移り、不足を訴える企業の裾野が広がったという説明も成り立ちます。母集団が年度で入れ替わる影響もあるため、断定はできません。

従業員100人以下の企業では「量」6割超に対し「質」7割超と、質の不足が上回る

規模によって、不足の現れ方は変わります。従業員100人以下の企業では、人数の不足より、スキル面の不足を訴える企業のほうが多くなります。

2025年度調査の従業員規模別の内訳は、次のとおりです。公表資料の表現に合わせ、丸めた形のまま記載します。

従業員規模 「量」の不足合計 「質」の不足合計
301人以上 9割超 9割超
100人以下 6割超 7割超

出典: IPA「DX動向2026」(2025年度調査。DXに取組んでいると回答した企業が対象)

この差から読み取れるのは、少人数の組織ほど増員という選択肢を取りにくいという点です。いま在籍するメンバーの守備範囲を広げること、つまり育成が事実上の打ち手になります。

ただし4件とも丸めた表現で登録されており、原数値は分かりません。「量」と「質」の実際の差が小さい可能性があり、規模別の回答数も確認できていません。

出典: IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)

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育成計画が形にならない原因は、目指す人材像と到達判定の不在にある

育成計画が形にならない原因は、目指す人材像と到達判定の不在にある

育成が進まない理由を「時間がないから」で片づけると、打ち手が見つかりません。足りていないのは、入口にあたる「どうなってほしいか」と、出口にあたる「到達したかをどう判定するか」の定義です。

IPA「DX動向2026」では、人材の「量」が不足していると答えた企業が2025年度時点で85.5%にのぼります。その一方で、目指す人材像を設定し社内に周知している企業は16.2%、人材の評価基準が「ない」企業は76.1%です。

不足は広く認識されているのに、育成の入口と出口は整っていない状態だと分かります。ここでは入口と出口を1つずつ分けて見ていきます。

ポイント

  • 育成計画に欠けやすいのは「必要なスキルの定義」と「到達の判定方法」の2つ
  • 必要なスキルを把握できていない企業は2025年度時点で52.8%(IPA)
  • この2つを先に決めると、OJT課題は日々の業務からそのまま割り付けられる

必要なスキルを把握できていない企業は2025年度時点で52.8%にのぼる

育成計画の前段でつまずいている企業は、少なくありません。IPA「DX動向2026」によると、DX推進に必要なスキルを把握できていない企業は2025年度時点で52.8%と、過半を占めます。

同じ調査で、人材の「質」が「大幅に不足」と答えた企業の割合を見てみます。スキルを把握している企業では40.6%、把握できていない企業では64.0%でした。

図表2: 必要スキルの把握状況別「質が大幅に不足」の割合(2025年度)

出典: IPA「DX動向2026」(2025年度調査。DXに取組んでいると回答した企業が対象)

この数値から読み取れるのは、必要なスキルを言語化できている企業群では、質への不足感の訴えが23.4ポイント小さいという点です。育成計画の第一歩は、タスクの割り当てではなくスキルの言語化にあると考えられます。

ただしこれは同じ時点での相関であり、因果関係は言えません。スキルを把握できている企業はDXの成熟度や予算の余力が高い可能性があります。物差しがない企業ほど主観で「大幅に不足」と答えやすい、という回答バイアスも考えられます。

人材像を周知している企業は16.2%、評価基準が「ない」企業は76.1%にとどまる

入口と出口の整備状況は、2年分の数値で見ても大きく動いていません。IPA「DX動向2026」で示された割合は、次のとおりです。

  • 目指す人材像を設定し社内に周知している企業: 2024年度20.4% → 2025年度16.2%
  • 人材の評価基準が「ない」企業: 2024年度75.7% → 2025年度76.1%
  • 人材の「量」が不足していると答えた企業: 2025年度85.5%

人材像の周知は前年から4.2ポイント下がり、評価基準が「ない」企業は2年続けて4分の3を超えています。数値を並べると見えてくるのは、不足の認識だけが共有され、目標と判定が置かれていない状態だという点です。

ここから解釈として言えることがあります。人材像と評価基準が明文化されていない状態は、育成の中身が指導役個人の経験に依存しやすい構造になります。属人化が実際にどの程度進んでいるかは、今回確認した統計からは分かりません。

注意

この設問は全社のDX人材を対象にしたものです。情報システム部門内のOJT基準を直接測った数値ではありません。部門内では口頭で実質的な基準が運用されていることもあり、「全社に周知していない=基準がない」とは限りません。周知率の低下も、設問の変更や回答企業の入れ替わりで説明がつく幅です。

出典: IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)

情シスの育成計画は、スキルの言語化から到達確認までの4段階で組み立てる

情シスの育成計画は、スキルの言語化から到達確認までの4段階で組み立てる

育成計画は、手順を並べただけでは動きません。スキルの言語化 → 到達状態と判定方法の決定 → OJT課題への割り付け → 振り返りと記録、の4段階で組み立ててください。 各段階には、前のセクションで見たデータが対応します。

この順序にする理由は、後ろの工程ほど前の工程の成果物を必要とするからです。判定方法は到達状態が決まらないと書けませんし、到達状態はスキルが定義されないと決まりません。逆に後ろの工程から着手すると、判定の基準が課題に合わせた後付けになります。

4段階のうち第1段階と第2段階は準備にあたり、新任者を迎える前に指導役だけで進められます。第3段階と第4段階は、受け入れ後の運用です。準備側を先に終えておくと、配属初日から課題を渡せます。

4段階と根拠の対応は、次のとおりです。いずれの数値もIPA「DX動向2026」の2025年度調査によるもので、すでに紹介したものです。

段階 やること 対応するデータ
1. スキルの言語化 自部門の業務を洗い出し、必要な知識と作業単位に分解する 必要なスキルを把握できていない企業は52.8%
2. 到達状態と判定方法の決定 どの状態を「できた」とするかと、判定の仕方を先に決める 人材像を周知している企業は16.2%
3. OJT課題への割り付け 定義したスキルを日々の業務課題に割り当て、期限を置く スキルを把握できていない企業では質が大幅に不足が64.0%
4. 振り返りと記録 判定結果を記録に残し、次の担当者の計画に引き継ぐ 人材の評価基準が「ない」企業は76.1%

出典: IPA「DX動向2026」(2025年度調査。DXに取組んでいると回答した企業が対象)

ポイント

育成計画は4段階で組み立てます。①自部門の業務を洗い出してスキルを言語化する、②到達した状態と判定方法を先に決める、③スキルを日々のOJT課題へ割り付ける、④判定結果を記録に残して次の計画へ引き継ぐ、の順です。指導役が1人でも回せる粒度にすることが前提になります。

第1段階では自部門の業務を洗い出し、必要なスキルを言語化する

最初にやることは、予算も承認も要りません。自部門でいま誰が何をしているかを1枚に書き出し、それぞれに必要な知識と作業を分解してください。

理由は、前のセクションで見た差にあります。質が「大幅に不足」という回答は、スキルを把握している企業で40.6%、把握できていない企業で64.0%でした。把握できていない企業は52.8%と過半を占めます(いずれも2025年度・IPA)。

洗い出す単位は、次のように分けると書きやすくなります。

  • 定型運用(アカウント発行、キッティング、台帳の更新)
  • 問い合わせ対応(一次受け、切り分け、エスカレーション)
  • 構築・更改案件(要件整理、ベンダー調整、移行作業)
  • セキュリティ対応(パッチ適用の確認、アラートの確認)

自部門の業務の洗い出しができたら、UISSやITSSといった既存のスキル標準と突き合わせ、使う項目だけを抜き出してください。

第2段階では到達した状態と判定方法を先に決める

「できるようになった」を感覚で判断しないために、判定方法は課題を渡す前に決めておきます。 判定が後付けになると、指導役の印象で評価が揺れます。

これは多くの企業で抜けている工程です。2025年度時点で、人材の評価基準が「ない」企業は76.1%でした。目指す人材像を設定し社内に周知している企業は16.2%です(IPA)。

判定方法は、観測できる形まで落とします。書き方の例を挙げます。

  • 手順書を見ながら単独で完了できる(付き添いなし、所要時間は問わない)
  • 手順書を見ずに完了できる
  • 同じ作業を別の担当者が、本人の手順書だけで再現できる
  • 想定外の事象が起きたとき、判断を仰ぐ相手と内容を自分で決められる

到達状態は、この4つのどれに当てはまるかで書きます。「基礎を理解する」のような表現は、判定できないため使いません。

第3・第4段階ではOJT課題へ割り付け、振り返りを記録に残す

定義したスキルは、新しい研修を作らずに割り付けられます。いまある業務のうち、失敗の影響が小さいものから順に本人へ渡し、期限と判定方法をセットで伝えてください。

割り付けと記録で押さえる項目は、次のとおりです。

  • 誰が指導役かを課題ごとに1人決める
  • 判定の実施日をカレンダーに先に入れる
  • 判定結果は「できた/できない」ではなく、どの判定方法まで到達したかで残す
  • 判定に使った手順書や記録の保管場所を決める

記録を残す理由は、次の新任を迎えるときに同じ設計をやり直さずに済むからです。2025年度時点で評価基準が「ない」企業は76.1%、育成予算を増やした企業は25.6%にとどまります(IPA)。予算が付きにくい前提なら、記録の再利用が効率を左右します。

では、この4段階を何日でどこまで進めるか。次のセクションで、本記事が提案する区切り方を説明します。

出典: IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)

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新任情シスを90日で区切るのは本記事の提案であり、統計上の標準期間ではない

新任情シスを90日で区切るのは本記事の提案であり、統計上の標準期間ではない

ここで、本記事の立場をはっきりさせます。「90日」は統計上の標準期間ではなく、本記事が提案する区切り方です。今回確認した官公庁統計の範囲では、新任者の立ち上がり期間を問う調査項目は見当たりませんでした。

公的調査が継続して測っているのは、不足の有無と仕組みの有無です。人材の「量」が不足していると答えた企業は2025年度時点で85.5%、評価基準が「ない」企業は76.1%でした(IPA)。どちらの設問も、期間との対応は問うていません。

そのうえで、編集部が90日という単位を採る理由は次の3点です。

  • 四半期の業務サイクルと一致し、繁忙期を避けた振り返りの日を置きやすい
  • 定型作業・継続運用・判断を伴う作業の3段階に分けると、1段階あたり30日程度になる
  • 30日ごとに判定日を置けば、遅れに気づいた時点でまだ修正できる

注意

「90日」は本記事が提案する区切りであり、公的統計で裏付けられた標準期間ではありません。今回の確認範囲はDB収録分と補足調査に限られるため、民間の人事調査などに実態データが存在する可能性は残ります。日数はそのまま使わず、自社の繁忙期や業務量に合わせて調整してください。

公的統計は不足の有無を問うが、立ち上がり期間は調査項目になっていない

測られてきたものと、測られてこなかったものを分けて確認します。公的調査は「足りているか」「仕組みがあるか」を繰り返し問う一方、「新任者が何日でどの業務を任せられるか」は調査項目になっていません。

今回使った設問の内容は、次のとおりです。

  • 人材の「量」が不足しているか: 2025年度時点で85.5%が不足と回答(IPA。不足の有無のみを質問)
  • 人材の評価基準があるか: 2025年度時点で76.1%が「ない」と回答(IPA。基準の有無のみを質問)
  • 要員が不足しているか: 2016年時点で54.9%が不足と回答(日本国内の従業員300人以上の企業の情報システム部門・セキュリティ担当部門の責任者・担当者が対象)

3つ目は2016年時点の調査で、調査主体も対象も異なります。1つ目・2つ目と並べて経年の変化として読むことはできません。

公的な段階モデルは期間ではなく到達レベルで区切られている

数少ない公的な段階モデルが、演習プログラムのレベル設計です。総務省「令和7年版情報通信白書」では、実践的サイバー防御演習CYDERが受講想定者ごとに分けて紹介されています。区切りは日数ではなく、到達レベルで定義されています。

レベル 想定受講者 習得内容の方向
初級(A) システムに携わり始めた者 事案発生時の対応の流れ
中級(B) システム管理者・運用者 主体的な事案対応とセキュリティ管理
準上級(C) セキュリティ専門担当者 高度なセキュリティ技術

出典: 総務省「令和7年版情報通信白書」

2024年度には、オンライン形式の「プレCYDER」も本格実施されました。全ての情報システム担当者に向けて、最低限必要な知識を扱うものです。

初級から準上級までの集合演習の受講者数は、2024年度で4,225人でした。対象は国の機関・地方公共団体・重要インフラ事業者等の情報システム担当者等です。単年の値のため、増減の傾向は読み取れません。

本記事の90日計画は、この到達レベル型の段階設計を日数に置き換え、社内のOJTで使いやすくしたものです。レベルの考え方は公的な例に沿っていますが、日数の配分は編集部の判断です。

出典: IPA「DX動向2026」/総務省「令和7年版情報通信白書」/IPA「企業のCISOやCSIRTに関する実態調査2017」報告書(2016年度調査)

90日育成計画のOJT課題と到達確認の記入例

90日育成計画のOJT課題と到達確認の記入例

ここからは、そのまま自社の書式に写せる形で記入例を示します。各期に「OJT課題」「到達確認の方法」「記録項目」の3つを必ずセットで書いてください。 課題だけを書いた計画表は、判定が後付けになり、感覚での評価に戻ります。

段階の並べ方は、前のセクションで紹介したCYDERのレベル設計を参考にしています。定型作業から始め、継続運用、判断を伴う作業へ広げる順です。日数の配分は本記事の提案であり、統計上の標準ではありません。

図表3: 新任情シスの90日育成計画の段階図

記入時の考え方は、次のとおりです。

  • OJT課題は、いまある業務から選ぶ(新しい課題を作らない)
  • 到達確認は、第2段階で決めた判定方法のどれかを指定する
  • 記録項目は、次の担当者が同じ設計を再利用できる粒度にする

ポイント

記入時に必ず埋める3項目は、①OJT課題(実際の業務名で書く)②到達確認の方法(観測できる形で書く)③記録項目(判定日・判定者・成果物の保管場所)です。空欄のまま渡すと、評価基準がない状態と同じことになります。

1日目から30日目は業務範囲の把握と定型作業の単独遂行を到達目標にする

第1期の到達目標は、自部門の業務範囲を把握し、手順が決まっている作業を単独で完了できる状態です。第1段階で作った業務一覧を、そのまま課題に落とします。

対象は、アカウント発行やPCのキッティングのように、手順が定まっていて失敗の影響が小さい作業です。必要なスキルを把握できていない企業は2025年度時点で52.8%でした(IPA)。この期に業務範囲を言語化しておくことが、その状態を自部門で繰り返さない備えになります。

OJT課題 到達確認の方法 記録項目
入退社に伴うアカウント発行・削除 手順書を見ながら単独で5件完了できる 実施日、件数、差し戻しの有無
PCのキッティングと資産台帳への登録 手順書を見ながら単独で3台完了できる 実施日、台数、台帳の記載漏れ件数
問い合わせの一次受けと記録 対応内容を記録に残し、判断を仰ぐ相手を自分で決められる 対応件数、エスカレーション件数

この期のゴールは、速さではなく正確さです。所要時間は判定条件に入れず、差し戻しや記載漏れの有無で見てください。

31日目から60日目は運用が続く作業を任せ、手順書として残すところまでを課題にする

第2期は、毎週・毎月繰り返す運用作業を任せ、本人に手順書を書かせるところまでを課題にします。 手順書化を含める理由は、到達確認を「本人以外が再現できるか」で判定できるようになるためです。

この判定方法を採ると、育成の中身が指導役の記憶に残るだけの状態を避けられます。2025年度時点で、目指す人材像を周知している企業は16.2%、評価基準が「ない」企業は76.1%でした(IPA)。部門内で判定の形を決めておく意味は大きいはずです。

OJT課題 到達確認の方法 記録項目
IT資産の棚卸しと差分の報告 手順書を見ずに完了し、差分を一覧で報告できる 実施日、差分件数、報告先
バックアップの取得状況の確認 本人が書いた手順書で、別の担当者が同じ結果を再現できる 手順書の版数、再現確認日、確認者
パッチ適用状況の確認と未適用端末の追跡 未適用端末を抽出し、対応期限を自分で設定できる 未適用件数、期限、完了日

手順書は完成度を求めず、書いた版をそのまま記録に残します。次の新任を迎えるときの教材になります。

61日目から90日目は専門領域の入口に立たせ、到達確認を記録に残す

第3期は、判断を伴う作業へ広げ、90日時点の到達を記録に残します。 障害の一次切り分けやインシデント対応の流れの理解が中心になります。

外部の演習を組み合わせる選択肢もあります。CYDERの集合演習は、2024年度に4,225人が受講しました。対象は国の機関・地方公共団体・重要インフラ事業者等の情報システム担当者等です。民間企業の場合は、対象要件を確認したうえで検討してください。

OJT課題 到達確認の方法 記録項目
障害発生時の一次切り分け 切り分け結果と根拠を記録に残し、判断を仰ぐ内容を自分で決められる 発生日、切り分け内容、エスカレーション先
セキュリティ事案の連絡フローの説明 連絡先と手順を、手順書を見ずに説明できる 確認日、説明内容、確認者
ベンダーとの打ち合わせへの同席と議事の作成 決定事項と宿題を、同席者の補足なしで整理できる 打ち合わせ日、議事の確認者

90日時点の判定結果は、次の90日の計画にそのまま引き継ぎます。90日で育成が完成するわけではありません。次のセクションでは、その先を見据える理由を確認します。

出典: IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)/総務省「令和7年版情報通信白書」

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90日の先は、人数では埋まらない専門性のギャップを見据えて計画する

90日の先は、人数では埋まらない専門性のギャップを見据えて計画する

90日計画は、単発で終わらせるものではありません。90日ごとに判定し、次の90日の課題を入れ替える形で更新し続けてください。 中長期の公的推計も、人数の確保だけでは課題が残ることを示しています。

経済産業省が2019年に公表した推計では、2030年のIT人材の需給ギャップは標準ケースで44.9万人とされています。IPA「DX動向2026」でも、人材の「質」が不足していると答えた企業は2025年度時点で88.8%でした。

調査主体も手法も異なりますが、どちらも人数の総量だけを課題に置いていません。このセクションでは、推計の中身を2つに分けて確認します。

注意

経済産業省の数値は2019年に公表された推計であり、実績値ではありません。IPAの企業アンケートとは調査主体・手法・単位がすべて異なるため、同じ推移として並べて読むことはできません。以下は将来の予測ではなく、区分による方向の違いを見る参考として扱ってください。

IT人材の需給ギャップは2030年に44.9万人と推計されている

採用で埋める前提は、中長期では成り立ちにくくなります。経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年公表)の標準ケースを見てみます。需要が供給を上回る規模は、対象年2018年で22万人、2020年で30万人と推計されています。対象年2025年では36万人、2030年では44.9万人です。

ただし2030年の値には幅があります。上限推計では78.7万人、下限推計では16.4万人です。2016年公表の前回推計では2030年を58.7万人としており、推計手法の変更で数値そのものが動いています。

図表4: IT人材需給ギャップの推計(対象年2018〜2030年)

出典: 経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」/同調査報告書(いずれも2019年公表)

いずれも2019年公表時点の推計であり、直近の実績を示すものではありません。幅の大きさを含めて読んでください。

2030年には従来型IT人材が供給超過、先端IT人材が54.5万人の需要超過と推計されている

同じ推計を人材の区分で分けると、方向が逆になります。IT需要の伸びを「中位」と置いたケースでは、2030年時点で従来型IT人材が9.7万人の供給超過と見込まれています。先端IT人材は逆に54.5万人の需要超過です(いずれも2019年公表)。

図表5: 2030年の区分別IT人材需給ギャップ

出典: 経済産業省「IT人材需給に関する調査」報告書(2019年公表)

IPAの調査でも、2025年度時点で「量」が「大幅に不足」と答えた企業は50.1%でした。「質」が不足していると答えた企業は88.8%です。

ここから読み取れるのは、出所の異なるデータが同じ方向を向いている点です。いずれも人手の総量ではなく、求められる専門性と手持ちの専門性のずれを課題の中心に置いています。

育成計画に「いまできる作業を増やす課題」だけでなく、「新しい領域へ踏み出す課題」を組み込む理由がここにあります。

ただし経済産業省の推計は2019年公表で、直近の需要変動や生成AIの普及は織り込まれていません。区分別の値は、IT需要の伸びを「中位」と置き、学び直しの進み方にも一定の前提を置いたシナリオの結果です。

需要の伸びを「低位」と置いたケースでは、数値は大きく変わります。標準ケースの44.9万人とも前提が異なります。将来の断定ではなく、方向性の参考として扱ってください。

出典: 経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」/同調査報告書(2019年公表)/IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)

育成計画を続けるには、指導側の時間と予算を先に確保する

育成計画を続けるには、指導側の時間と予算を先に確保する

育成計画が止まる場所は、たいてい指導側です。判定の時間を業務量に織り込まないまま始めると、課題だけが渡されて判定が先送りになります。

IPA「DX動向2026」によると、人材の育成予算を増やしたと答えた企業は2025年度時点で25.6%です。「大幅に増やした」と「やや増やした」の合計で、2024年度は23.8%でした。

同じ2025年度時点で人材の「量」が不足していると答えた企業は85.5%であり、大きく開いています。

不足の認識と、育成に割く資源の間には距離があります。予算が付かない前提でも動かせる打ち手から始めてください。

ポイント

  • 指導役の稼働をあらかじめ業務量に織り込む(判定1回あたりの時間を見積もる)
  • 30日目・60日目・90日目の判定日を、計画開始前にカレンダーへ入れる
  • 新しい教材を作らず、いまある業務をOJT課題に転用する

育成予算を増やした企業は2025年度時点で25.6%にとどまる

数値をもう一度並べます。2025年度時点で、育成予算を増やした企業は25.6%、前年は23.8%でした。一方で人材の「量」が不足していると答えた企業は85.5%、評価基準が「ない」企業は76.1%です(いずれもIPA)。

図表6: 育成の仕組みの整備状況(2024年度・2025年度)

出典: IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)

この組み合わせから読み取れるのは、不足を認識してから育成の仕組みに落ちるまでの間に断絶があるという点です。予算を待つより、いまの体制で回せる打ち手を先に置くほうが現実的です。

  • 到達確認の時間を、月次の定例作業と同じ扱いでカレンダーに入れる
  • 既存の運用業務をOJT課題に転用し、教材作成の工数をかけない
  • 判定結果の記録様式を1つに統一し、次の新任時に再利用する

なお2年分の1.8ポイント差は小さく、傾向とは呼べません。設問は全社のDX人材を対象としており、情報システム部門の教育費と一致する保証もありません。

指導側が不足を感じる状況は2016年時点にも記録されている

「忙しくて育成まで手が回らない」は、今年だけの話ではありません。IPAが2016年に実施した調査の対象は、日本国内の従業員300人以上の企業の情報システム部門・セキュリティ担当部門の責任者・担当者です。このうち54.9%が、セキュリティ要員(人数)は不足していると回答しました。

ただし2016年時点の調査であり、現在の実態を示す数値ではありません。

それでも言えるのは、体制が整うのを待つ設計にすると、計画がいつまでも始まらないという点です。だからこそ、いまの人数のまま回せる90日単位の設計に意味があります。

負荷を分散する手段として、外部の演習を組み合わせる方法もあります。前述のCYDERは2024年度に4,225人が受講していますが、対象組織は限られます。

注意

54.9%は2016年時点の調査結果で、母集団は日本国内の従業員300人以上の企業の責任者・担当者です。調査主体も指標も異なるため、本記事のIPA「DX動向2026」の年次値と経年で比較することはできません。過去にも同じ論点が記録されていた、という文脈の参考としてお読みください。

出典: IPA「DX動向2026」(DXに取組んでいると回答した企業が対象)/IPA「企業のCISOやCSIRTに関する実態調査2017」報告書(2016年度調査)/総務省「令和7年版情報通信白書」

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まとめ

情シスの育成計画の作り方は、スキルの言語化から到達確認までの4段階に整理できます。新人教育を何から始めるか迷ったら、教える内容ではなく、目指す状態と判定方法から決めてください。

この記事で確認した事実と、そこから読み取れることを整理します。

  • 企業の人材課題は「頭数」より「求める水準に届く人がいない」側に移っている(人材の「質」が不足していると答えた企業は2025年度時点で88.8%)
  • 育成が止まる原因は入口と出口の不在にある(必要なスキルを把握できていない企業52.8%、人材像を周知している企業16.2%、評価基準が「ない」企業76.1%。いずれも2025年度)
  • 育成予算を増やした企業は2025年度時点で25.6%にとどまるため、予算を待たずに動かせる打ち手から始める
  • 本記事の「90日」は統計上の標準期間ではなく、実務で扱いやすい単位として編集部が設定した区切り

明日から取りかかるなら、まず自部門の業務を1枚に書き出してください。その1枚が、OJT課題と到達確認の材料になります。 30日ごとに判定日を置き、結果を記録に残せば、次の新任を迎えるときの計画はさらに短時間で作れます。

出典: IPA「DX動向2026」(2025年度調査。DXに取組んでいると回答した企業が対象)

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育成計画は到達確認とセットで回ること、指導側の時間が最大の制約になることを見てきました。知識のインプット部分を外に出せると、指導役の負担はその分軽くなります。

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※出典
– IPA「DX動向2026」
– 経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」(2019年公表)
– 経済産業省「IT人材需給に関する調査」報告書(2019年公表)
– 総務省「令和7年版情報通信白書」
– IPA「企業のCISOやCSIRTに関する実態調査2017」報告書(2016年度調査/Web archive)

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